中心性脊髄損傷等骨折・脱臼のない場合でも脊髄損傷が認められた判決例です。

[中心性脊髄損傷,後遺障害,脱臼,頚随損傷,骨折]

中心性脊髄損傷等の骨折・脱臼のない場合でも脊髄損傷が認められた裁判例です。
いずれも,自覚症状のみならず,画像所見を含む他覚的所見あるいは,症状経過等を総合的に判断をしています。

【裁判例1】損傷箇所の一部画像所見がある
 
【裁判例2】画像所見は明確ではないが,経過等から認める

【裁判例3】ヘルニア及び配列異常という他覚所見がある
 
【裁判例4】外傷後脊髄空洞症(脊髄損傷の満席期)の画像所見がある
 
【裁判例5】画像から可能性が確定もできないが否定もできない
 


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【裁判例1】損傷箇所の一部画像所見がある   (クリックすると回答)

大阪地裁 平成7年3月2日判決
<出典> 交民集28巻2号351頁

脊髄損傷の有無及びその原因
①原告は,本件事故直後,排尿困難を訴えて軽度の下腹部緊満が認められたほか,顔面に冷や汗をかき,苦痛の表情で「身体に触らないでくれ。」と言い,腰部痛及び右肘から手先の痛みを強く訴え,ぴりぴりした痺れが少し認められたが,これらは脊髄損傷の初期症状と相当に類似性がある

②原告は,本件事故当時,就労して自活できる程度の収入を得ており,本件事故当日も仕事帰りで自転車に乗っていたことからすれば,本件事故を機に,自力歩行が相当に困難な状態が発現したと考えられる

③原告には胸髄11髄節以下の知覚障害がほぼ一貫して認められており,これは,胸椎10-11椎体レベルの胸髄内に異常を認めた胸髄MRI検査結果と符合する

④右の胸髄MRI検査結果自体,当該部位に外傷による胸髄損傷が生じている可能性を窺わせる他覚的所見であること

⑤原告の症状には脊髄ショック等脊髄損傷の典型的な諸徴候が明確には認められないものの,脊髄損傷の部位・程度によって右徴候の有無・程度には相当広範囲な差異があり,画像診断で捉えられない脊髄損傷も存在する

①ないし⑤を総合考慮すれば,本件事故による外力が,原告の脊髄(胸椎10-11椎体レベルの胸髄内)に損傷等の影響を与え,両下肢麻痺の一因となったことが認められ,本件事故と原告の両下肢麻痺との間に相当因果関係を認めることができる。


【裁判例2】画像所見は明確ではないが,経過等から認める  (クリックすると回答)

神戸地裁 平成11年1月11日判決
<出典> 交民集31巻1号47頁

鑑定人はMRI画像が上等ではないとして「頸髄空洞症」との診断には疑問を呈しつつ,右の庄医師の「頸髄損傷」との診断を否定していない。

そのうえで,鑑定人は,原告の症状経過が頸髄損傷の一般的な経過と異なるものではあるが,本件事故との因果関係を完全に否定することはできないとし,他方で,本件事故以前に存在した素因あるいは障害との関係を否定することもできない,と判断している。

受傷後の症状経過,検査所見,既往症ないし素因,医師らの知見等に照らすと右鑑定意見のとおり,認定の症状は本件事故と因果関係があるものというべきであり,その後遺障害ということができる。

もっとも,前記のように右側は上肢下肢ともにかねて障害を有していたこと,原告には頸椎管狭窄が生じており頸髄損傷を起こしやすかったこと,本件では重篤な外傷はなかったうえ,外傷性の頸髄損傷に見られる通常の経過をたどってはいないことからすると,原告の右既往症や素因は前記認定の後遺障害の発生に大きな原因となっていると解され,本件後遺障害の発生に,50%は寄与しているものと認定するのが相当である。


【裁判例3】ヘルニアと配列以上という他覚所見がある  (クリックすると回答)

東京地裁 平成15年5月8日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1510号

鑑定人は,原告には疼痛・痺れ感・脱力感などの自覚症状に加え,上下肢の深部腱反射の充進やHoffmann徴候,Tromner徴候などの病的反射の出現等の神経学的異常所見が認められ,そのうち少なくとも頸部痛,左下肢の筋力低下・知覚障害及び歩行障害については,原告の頸部に本件事故による外傷性の第5・第6椎間板ヘルニアと頸椎の配列異常という他覚的所見が認められ,脊髄麻痺症状を示唆する神経学的異常所見も認められる。

また,原告を平成元年から継続して診察してきたハーン医師も,最終的には,原告には第5・第6頸椎椎間板部で脊髄の明らかな損傷が見られ,この損傷が原告の症状の原因となっていると断定できるとしている。

さらに,A病院の竹内医師も,原告の頸椎の画像所見等に基づき,病名を頸髄不全損傷,頸椎椎間板ヘルニアと診断している。

頸椎部に関するこれら3医師の所見はほぼ一致しているといえ,その所見は,これまでに検討したところを総合すると合理的であると認められる。

そうすると,原告には,第5・第6椎間板ヘルニアと頸椎の配列異常という他覚的所見が認められ,この頸椎椎間板ヘルニアによる脊髄の圧迫のため脊髄に不可逆的な変化が生じ,これが原因となって,原告に,頸部痛,左足の筋力低下・知覚障害及び歩行障害の症状が生じているものと認めるのが相当である。


【裁判例4】外傷後脊髄空洞症(脊髄損傷の満席期)の画像所見がある  (クリックすると回答)

名古屋地裁岡崎支部 平成16年5月7日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1545号

原告花子の場合,本件事故に遭遇する以前の段階では,既存障害による若干の症状を除き上肢機能に顕著な障害が存在した形跡はないのに対し,本件で認定される重篤な上肢(特に右上肢)機能の障害は,本件事故後2週間以内には発症した。

本件事故当時,原告花子は18歳の女性でまだ脊椎の柔軟性があり,受傷時に車両の下敷きになった際,頸椎から上位胸椎が高度に前屈や後屈あるいは伸張されたとすれば,胸髄は強い屈曲と長軸方向への牽引力により屈曲,伸張され,胸髄の骨傷を伴わない脊髄損傷を合併したとも考えられること

頸髄についても胸髄と同様の受傷機序で頸髄の強い屈曲や伸張が加わったことにより骨傷を伴わない脊髄損傷を起こしたものと考えられること

頸髄部の髄内病変が外傷による骨傷を伴わない脊髄損傷であったとすれば,脊髄の挫滅による脊髄壊死や脊髄浮腫の程度,範囲が受傷後徐々に悪化,拡大し,受傷後数日の無症状期間を経てから症状が徐々に出現してくることはあり得ること

発症後の麻痺の悪化,拡大とその後の改善は外傷性脊髄損傷の急性期に比較的よく見られるものであり,第4~第7頸椎レベルの髄内における嚢腫様の空洞を示す所見は,脊髄損傷の慢性期に見られる,いわゆる外傷後脊髄空洞症の画像所見と思われること

原告花子の肺活量(予測値の約33%)について,頸髄損傷,四肢麻痺(体幹障害を含む。)の場合,多くの呼吸筋が障害されるために拘束性肺機能障害(肺活量の低下)をきたしたものである旨所見を述べているところ,本件事故から4日後の時点で既に原告花子の肺活量は予測値の46%にまで低下していること

以上の諸点を総合考慮すると,原告花子の脊髄の異常と本件事故との因果関係を認めるのが相当である。


【裁判例5】画像から可能性が確定もできないが否定もできない。  (クリックすると回答)

大阪地裁 平成18年4月26日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1662号

(1)原告車両は本件事故の衝撃で約2.2㍍前方に移動し,その際,リアフロアに歪みが生じているのであり,これらのことからすると,原告の身体に対する本件事故の衝撃は小さなものであったとはいえず,他方,医学的知見等にあるように,軽微な外傷によって脊髄損傷が生じることはあると考えられる。

(2)脊髄損傷の存在を確定的に認識できる画像は存在しないが,MRIの画像によれば,本件事故により,原告の第5頸椎前後の頸椎及び脊柱管付近で出血があった可能性は否定できないと考えられる。

(3)原告には,本件事故発生後に意識消失,反射異常及び筋力低下が発現し,その後も反射異常及び筋力低下は持続し,特に両下肢の運動機能の低下は現時点まで持続している。

確かに,非骨傷性頸髄損傷の臨床像の特徴として,一般的に頸髄横断面における傷害領域は中心部損傷となる頻度が高いことが指摘され,また,麻痺の回復は,下肢・上肢の順に見られ,手指が最も遅れることが指摘されており,原告の症状は,これらの点で非骨傷性頸髄損傷の臨床像に合致せず,また,中高年に好発するという非骨傷性頸髄損傷の臨床像の特徴にも合致しない。
しかしながら,これらの特徴を有しないからといって,その症例に脊髄損傷がないとまではいいきれず,この点は,後記のとおり,諸事情を総合的に考慮して判断すべきである。

(4)以上のとおり,本件事故前にはなかった歩行困難等の諸症状が本件事故直後から原告に発生し,原告の諸症状は脊髄損傷により生じたものとした場合,一応の説明が可能であり,原告の主治医2名が,原告の諸症状の原因を脊髄損傷と同定し,本件事故の態様は本件事故による脊髄損傷の発生の可能性を排斥するほど軽微なものでなく,画像所見からも第5頸椎付近で脊髄損傷があった可能性を否定できず,これらの諸事情を総合して考慮するならば,前記の原告の諸症状は,本件事故に基づく原告の脊髄損傷に由来するものであると認めるのが相当であり,本件事故と原告の本件障害との因果関係はあるものと認められる。

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