膝十字靱帯等靱帯損傷の後遺障害(後遺症)に関する判決例の分析です。

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膝関節十字靱帯等靱帯損傷の後遺障害に関する判決をご紹介しています。
非常に多発する傷害であり,ほとんどの事案で後遺障害が問題となります。

1 関節機能障害で12級を認めたもの
2 機能障害はなくとも神経症状で12級を認めたもの
3 神経症状14級を認めたもの

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1 関節機能障害で12級を認めたものはありますか。   (クリックすると回答)


①京都地裁 平成14年2月21日判決
自動車保険ジャーナル・第1452号


被害者は,寝る時以外には常時支柱入りのサポーターを必要とする左膝の不安定性,屈曲困難,左膝関節の頑固な疼痛,左下肢の醜状痕の後遺障害が残存したものである。

これらの後遺障害は,後遺障害等級後遺障害等級12級7号(1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)に該当すると認められる。
また,左膝関節の頑固の疼痛については,当該機能障害に含めて評価されるべきものと解される。

②横浜地裁 平成2年7月19日判決
自保ジャーナル・判例レポート第90号-No,17

被害者は,膝の屈曲が自動で右120度,左125度らの後遺障害を残し,家事に多大の不便を忍んでおり,人手を借りざるを得ない場合も多いこ,右後遺症は,両膝機能障害が12級7号,右下腿部外側シビレが14級10号に該当するとされ,併合12級と認定されたことが認められる。
上記事実によれば,被害者(症状固定時51歳)は本件後遺障害により,67歳までの16年間を通じて労働能力の14%を喪失したものと認められる。

2 機能障害はなくとも神経症状で12級を認めたものはありますか。  (クリックすると回答)


③大阪地裁 平成15年5月16日判決
自動車保険ジャーナル・第1515号
自動車保険料率算定会は,被害者の右膝関節部に頑固な神経症状が後遺しているとして,後遺障害等級第12級12号に該当すると認定した。

被害者の本件事故による傷害右膝後十字靱帯損傷,右膝蓋骨遠位端剥離骨折は,右膝関節部に疼痛を後遺して,症状固定したこと,そして,被害者は,同疼痛によって,正座することができず,しゃがむことも困難であることが認められる。
同疼痛は,右膝後十字靱帯損傷及び下腿骨の後方へのずれに起因しているものと認められる以上,その改善は困難であると認められることから,労働能力喪失期間は,就労可能年数39年に及ぶと認めるのが相当である。

④名古屋地裁 平成17年3月9日判決
自動車保険ジャーナル・第1617号

被害者は,正座ができないことから,正座を要する場所への出席ができない,和式トイレが使えない,階段の昇り降りが苦痛である,500㍍から1㌔㍍程度の距離を歩くと痛みが出て歩行が困難となるなどの障害があり,さらに,趣味のジョギングやスキーができなくなった。
以上の被害者の後遺症は,「労働には通常差し支えないが,時には強度の疼痛のためある程度差し支えがあるもの」として後遺障害等級第12級12号に該当すると認められる。
労働能力について,60歳までの7年間は14%,61歳から67歳までの7年間は7%喪失したと認められる。

⑤名古屋地裁 平成17年8月17日判決
自動車保険ジャーナル・第1624号

左膝後十字靱帯損傷左膝内側半月板損傷被害者の後遺障害は,器質傷害ではなく,第12級相当の神経症状であるから,時間の経過とともに慣れ,軽減すると思われる。
その逸失利益が損害として認められるのは,就労可能年数17年の全期間ではなく,長くとも7年程度であると考えられる。

3 神経症状14級を認めたものはありますか。  (クリックすると回答)


⑥大阪地裁 平成14年11月8日判決

 自動車保険ジャーナル・第1503号

しゃがみ込むと左膝内側痛との訴えについて,左膝画像上より,左膝顆に剥離骨折様のものがみられ,半月板及び内側側副靱帯損傷を捉える信号変化も見られることにより,訴え症状の残存は否定し難く,局部に神経症状を残すもの14級10号に該当するものと判断し,「早期の緩解の見込みがあるとはいえない」と10年の喪失期間を認めた。

⑦京都地裁 平成21年7月29日判決

 自保ジャーナル・第1815号

被害者には,左膝後十字靱帯損傷による左膝痛等の後遺障害(「局部に神経症状を残すもの」として等級表第14級に該当するもの)が残ったこと,労働能力喪失期間は症状固定日から10年間とする。
(左)膝後十字靱帯損傷で(左)膝不安定性の症状があり,膝関節鏡視下後十字靱帯再建術を行い,長期間積極的なリハビリが必要とされた事例であった。

4 全体としての傾向はどうでしょうか。  (クリックすると回答)


①は,複合靱帯損傷として前・後十字靱帯,内・外側側副靱帯のすべてが損傷し後遺障害12級が認定された事例です。この様な場合には,常時支柱入りのサポーターを必要とする動揺性(不安定性),屈曲困難といった機能障害および疼痛といった神経症状も残存してしまうことが多くあります。
しかし,判決は,動揺関節に該当しないし,屈曲制限も10級には該当せずせいぜい12級であるとしたものです。

②は,両膝とも屈曲制限という機能制限が残存したものです。この場合には,12級となっています。

③④⑤は,機能制限ではなく神経症状が残存した事例です。同じ12級の認定ですが,労働能力喪失期間については大きく異なっています。

③は,67歳までの喪失期間を丸ごと認めましたが, ④は60歳までの7年間は14%,61歳から67歳までの7年間は7%の喪失率と刻みを入れた逓減方式をとりました。この事例は,被害者の後遺症は,「労働には通常差し支えないが,時には強度の疼痛のためある程度差し支えがあるもの」と認定したことから,この様な逓減方式をとったものとも考えられます。

⑤については,12級でありながら喪失期間を実に7年間という短い期間に限定しました。その理由としては「第12級相当の神経症状であるから,時間の経過とともに慣れ,軽減すると思われる。」とありますが,14級の次の事例から見てもバランスを欠くと思われ,結論には賛成できません。
⑥⑦はいずれも神経症状14級の事例です。喪失期間については,10年間としています。

なお,⑦については,治療経過および症状については,決して軽いものではなかったのですが,改善の状況がよかったため14級にとどまったものと思われます。

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