1耳だけの耳鳴・難聴でも等級どおりの逸失利益は認められますか。片方でカバーできると言われませんか。

[労働能力喪失,後遺障害,,耳鳴,逸失利益,難聴,9級]

1耳のみの難聴あるいは耳鳴は,労働能力に等級どおりの影響があるのかどうかが争点となることがあります。
本件判決は,2か所で収入を得る被害者(当時,27歳女性)が,交通事故で顔面・頭部打撲等で自賠責9級9号認定の左耳鳴り・難聴を残したとする事案で,
67歳まで
9級35%の労働能力喪失で逸失利益を認めました。基礎収入は,賃金センサス全年齢平均です。

大阪地裁 平成14年1月18日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1452号(平成14年7月25日掲載)交民集35巻1号59頁

【事案の概要】(クリックすると回答)

接客業を含む2か所で収入を得る被害者は,平成10年3月14日,片側1車線道路を原付自転車で直進中,渋滞車両に譲られて路外駐車場に進出するため右折してきた加害者運転の乗用車に衝突され顔面・頭部打撲等で約10か月に12日入院,15日実通院しました。
結果,自賠責9級9号の左耳鳴り・難聴を残しました。裁判所は,9級左耳鳴り・難聴の逸失利益は「就職するに不安がある」等から賃金センサス全年齢平均で67歳まで35%の労働能力喪失を認めました。

【判決の趣旨】(クリックすると回答)

被害者(昭和46年2月25日生,本件事故時,症状固定時とも27歳,女性)は,本件事故前は,中古車の洗車および和食店で接客の仕事をしていた。
被害者は,本件事故後,左耳が全く聞こえない分右耳で集中して聞こうとするため,大変疲れやすくなった。
本件事故後は,難聴のほかに,めまいや立ちくらみで突然倒れることがあり,就職するに不安を感じており,現在でも仕事をしていない。

被害者の事故前の職業の一つである飲食店における接客業もそうであるが,他人との円滑なコミュニケーションを図る面等から聴力が重要である職業も多く,被害者は今後の就職の上で難聴により職種が制約されて就職に困難が生じたり,また,就職できた場合でも,右耳で集中して音を聞こうとするため疲労しやすく,相当の努力が必要になる等の不利益を被るおそれがあること,被害者の難聴は改善の見込みがないことからすれば,労働能力喪失率や喪失期間を制限すべき事情は認められない。
なお,ある程度の慣れが生じるともされているが,人と話をするときに自分の左側に人を立たせないようにする等といったことであれば,被害者自身の行動の制約となることは変わらないし,慣れとは言っても,上記の不利益を相当程度解消するものとまでは認められないから,労働能力喪失率を低減することはできない。

【コメント】(クリックすると回答)

被害者の後遺障害は,1耳ではありますが,聴力は118.3dB,112.5dBと90dBを優に超えるものです。しかも耳鳴りがひどくて「めまいや立ちくらみで突然倒れることがある」というものでした。
また,「左耳が全く聞こえない分右耳で集中して聞こうとするため,大変疲れやすくなった」点も認定しております。その点から,自賠責どおりの9級としたのは妥当と思われます。

問題は,1耳のために,健常な片耳で就労の点がカバーされるのではないか,従って,労働能力について喪失期間を短縮するあるいは期間により低減することができるのではないかという主張が加害者側,賠償側から出されることがあります。

この判決は,「ある程度の慣れが生じるともされているが,人と話をするときに自分の左側に人を立たせないようにする等といったことであれば,被害者自身の行動の制約となることは変わらないし,慣れとは言っても,上記の不利益を相当程度解消するものとまでは認められないから,労働能力喪失率を低減することはできない。」とそのような主張を明確に却けました。極めて妥当だと思います。

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