脳挫傷で,当初軽度の意識障害継続後に記憶・注意障害が出現した場合に5級高次脳機能障害が認められた判決です。

[JCS,介護費用,後遺障害,意識障害,画像所見,高次脳機能障害,5級]

被害者(当時21歳男性)は,乗用車助手席同乗中,踏切に進入して電車と衝突して,軽度の意識障害が継続後,記憶・注意障害が出現等したものでした。

被害者の高次脳機能障害の等級につき,ある程度の意思疎通は可能も,頻繁な助言を必要とするなど「社会行動が著しく困難」等から,5級2号と認定しました。
また,将来介護費用としては日額3,500円が認められました。

神戸地裁 平成20年10月14日判決
平成18年(ワ)第904号 損害賠償請求事件
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1801号(平成21年10月8日掲載)



【事案の概要】
被害者(当時,21歳男性配送業務従事)は,助手席同乗中,踏切に気付くのが遅れて,電車と衝突し,脳挫傷等で入院10日を含む628日治療後に症状固定したものでした。

被害者は脳挫傷受傷後,意識障害(JCS10→11)が1週間継続したものの軽度であったことから,高次脳機能障害との因果関係が争点となり,また,ある程度の意思疎通が可能であることから後遺障害の程度及び将来の介護費用についても問題となりました。

被害者の初診時の状況は以下のとおりです。
平成14年10月19日の本件事故後,救急車でB病院に搬入され,外傷性くも膜下出血,脳挫傷,頭部打撲,裂創,両下肢多発裂創により入院し,CTや頭部MRI上,前頭葉に脳挫傷,外傷性くも膜下出血が認められ,保存的療法がとられた。
搬入時の意識障害のレベルはJCS10であり,口頭での指示にほぼ良好な反応であり,神経学的な異常はなく,入院の際の症状として意識障害とされ,入院初日は排尿時の覚醒の際に氏名は答えられるものの,事故の記憶は不明であり,ぼんやりとしている状態であり,看護師の呼びかけに対して開眼するもすぐに入眠し,10月20日の医師の診察の際には意識が清明で神経学的な異常はなく,傾眠傾向が10月22日まで続き,JCS11程度の意識障害の状態が概ね退院まで続いていた。10月23日には外傷後の健忘がみられた。


【判決の趣旨】
被害者の高次脳機能障害と本件事故との相当因果関係
被害者は,救急搬入時にJCS10程度の軽度の意識障害しかなく,その後の意識障害もJCS11程度のものにしかすぎない軽度のものはあるが,1週間以上継続した。被害者は,本件事故から1か月後にはどもりが始まり,物忘れが見られるようになってきた。
他の医師も,SPECTにより示される広範囲にわたる血流低下,軽度の意識障害の1週間の継続を考慮すると,本件事故による脳の器質的損傷の可能性を否定することができないとする。
以上を総合すると,被害者の高次脳機能障害は,本件事故と相当因果関係があるとみるのが相当である。

(3) 後遺障害の程度
被害者は,家族や小さな子供に対して突然怒り出すなど易怒性がみられるが,いったん怒り出すとしばらくは手が付けられなくなるなど常軌を逸するようなことを認めるに足りる証拠はないし,本件事故後に就いた仕事についてその完遂ができなかったとはいえ,対人関係等で大きな問題が生じた形跡もなく,ルールやマナーに対する理解力の不足から不適切な行動を取る可能性もあるが,社会行動が著しく困難であるとまでいうことはできない。
等級表第2の5級2号の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができない」に該当するとみられる。

【コメント】
事故による高次脳機能障害の認定として
(1)頭部打撲・受傷(2)頭蓋内の受傷(3)障害残存画像(事故後の脳萎縮・脳室拡大を示す画像)(4)事故直後の意識障害
のすべてを充たすことが必要か,すべてではなくとも,どこまで必要かという問題があります。
本件は,
(1)頭部打撲・受傷→あり
(2)頭蓋内の受傷→あり
(3)障害残存画像(事故後の脳萎縮・脳室拡大を示す画像)→なし
(4)事故直後の意識障害→あり,但しJCS10から11と軽度
という事案です。
本件判決は,「JCS11程度のものにしかすぎない軽度のものはあるが,1週間以上継続した。」という意識障害のレベルとして訴訟としての基準は満たしているということ,そして,「被害者は,本件事故から1か月後にはどもりが始まり,物忘れが見られるようになってきた。」という高次脳機能障害の症状出現の時期から受傷との相当因果関係を認めたものです。

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