実質個人企業であることから役員報酬全額を基礎収入としたものであり,事故後の会社解散については被害者の不利に扱わなかった判決です。

[休業損害,基礎収入,廃業,役員報酬,赤字,非該当,高齢,14級]

【赤い本平成30年版p80の判決】

土木会社経営者(男・事故時69歳,自賠責非該当だが14級に準ずると認定)につき,本件事故がきっかけで体調の悪さを普通以上に深刻に受け止めるようになり,

早期に仕事に復帰できず事故の7ヶ月後に会社を解散し廃業せざるを得なかった場合に,被害者が比較的高齢であったことを考慮し,事故年度の役員報酬額440万円全額を基礎とし,症状固定までの429日間,517万円余を(休業損害として)認めた

(名古屋地判平成17年7月15日)。


【事案の概要】

1 事故日時 平成14年11月29日午前11時ころ

2 事故状況  被害者が道路に佇立中,背後から被告普通貨物車に追突された。


(傷害内容) 左手打撲,頸椎・腰椎・膝部挫傷

3 治療状況  

ア 長島回生病院

 平成14年12月2日から平成15年6月9日まで通院

 211日間(実通院日数146日)

イ 瀧原診療所

 平成15年6月10日から平成16年1月31日まで通院

 236日間(実通院日数150日)


4 後遺障害  

自賠責非該当だが14級に準ずると認定


5 争点に関連する事実

原告は,丙川組を経営していたこと,原告とその妻が取締役であり,常雇いの従業員は2名で,必要に応じて従業員を臨時に雇い,原告及び妻も現場に出て作業を担当していたこと,丙川組の平成12年度の年間売上は6,149万円,原告の報酬は600万円,妻春江の報酬は360万円であり,平成13年度の年間売上は,5,431万円,原告の報酬は600万円,妻春江の報酬は360万円であり,平成14年度の年間売上は,2,414万円,原告の報酬は440万円,妻春江の報酬は160万円であったことが認められる。


【判決の趣旨】

原告の報酬は,その大部分が労働の対価と見て良く,平成14年度の売上げが平成13年度に比べて大幅に減少していることを考慮して,平成14年度の原告の報酬額440万円を基礎収入とするのが相当である。

被告は,丙川組が平成14年度に大幅な売上げ減を発生させて赤字となり,原告及びその妻は,受領した報酬の全部を丙川組に貸し付けて,会社経営を維持しており,丙川組が小規模な個人企業であることを考慮すると,原告には収入がなかったものと見なすべきである旨主張する。

しかし,小規模であっても,丙川組の会社の会計と原告夫婦の家計とは,別個のものであり,赤字を出した丙川組に対して,原告夫婦が個人の資産をつぎ込んで,なお会社の存続を図ろうとするか,会社の将来に見切を付けて廃業にするかは,原告夫婦が丙川組からその労働の対価として相応の報酬を受領することとは切り離して考えるべき事柄であるから,被告の上記主張は採用しない。

原告は,本件事故日の平成14年11月29日から症状固定日の平成16年1月31日までの429日間,体調不良のため労働に従事できなかったことが認められる。上記認定説示のとおり,本件事故がきっかけとなって,丙川組を解散せざるを得なくなったものであるところ,原告は本件事故当時69歳と比較的高齢であったことを考慮すると,この通院期間の全部について休業するのもやむを得なかったと解せられる。

計算 4,400,000÷365×429=5,171,506


【コメント】

本件判決は,役員報酬について,その全額が労務対価性があるとしたものです。

実態は夫婦二人の会社であることから個人企業と言って良いものです。

問題点は,原告夫婦の収入を貸し付けて運営しており,実際には減収の対象となるべき収入がそもそもなかったのではないかという点です。そして,現実に事故後に会社解散をして廃業しているのは,やりくりが限界に来たからではないかという点です。

しかし,判決は以下の理由から被告の指摘を退けています。

1 会社と個人の会計は別であり,役員報酬として一旦受領している以上はその使途は問わない。

2 会社の存続を図ろうとするのか,廃業を選択するのはまさに自由であり,そのことについて云々しない。


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