身体障害者(1級)の被害者が事故により後遺障害1級となった場合の逸失利益及び慰謝料に関する判決です。

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心臓障害で身体障害者1級を受ける64歳女子無職の被害者について後遺障害1級3号と認定し,既存障害を5級相当として,逸失利益については1級と5級の喪失率の差である21%の喪失率で,また,後遺症慰謝料については,1,300万円とした判決です。

京都地裁 平成12年6月8日判決(確定)
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1403号

【事案の概要】   (クリックすると回答)


脳血栓による左上下肢麻痺の後,心筋梗塞による心臓障害で身体障害者1級を受ける64歳女子無職の原告は,平成9年5月28日午前11時05分ころ,ニュータウン内道路を歩行横断中,バックブザー故障の後退小型保冷車に衝突され,多発性肋骨骨折,両側血胸,骨盤骨折(粉砕型),左大腿骨折,左大腿骨顆上顆部骨折,左橈骨遠位端骨折,左尺骨骨幹部骨折,頭部外傷,膀胱損傷で575日入院し排尿排便障害を伴う常時介護の自賠法1級3号後遺症を残しました。

この場合に,1級のままでの後遺障害による逸失利益や慰謝料が認めれるのかどうかが問題となりました。

【判決の趣旨】  (クリックすると回答) 3


原告は事故前から心臓機能障害で身体障害者障害程度等級表1級,左上下肢及び体幹機能障害で2級に認定されて障害者手帳の交付を受けていた。
家事に従事できたとしても,自己の身辺の日常生活活動が極度に制限され,さらに,左上下肢の前記の機能障害が存するから,その既存障害は独力では一般平均人の4分の1程度の労働能力しか残されていなかったと見るのが相当であり,これを自賠法施行令の後遺障害等級表に当てはめれば「神経系統の機能に障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」として5級2号に準じて考えるのが相当である。

自分の意志での排尿・排便のコントロールも不能で常時介護を要する状態にあると1級認定して,既存障害を5級2号に準じて考えるとし,労働能力喪失率を「21%(100-79)」とし余命年数の2分の1の期間センサス同年齢の21%喪失で加重障害の逸失利益を認定し,後遺症慰謝料としては,1,300万円をもって相当とする。

 【コメント】 (クリックすると回答)


既存障害がある場合に,重度後遺障害が事故で残存したとすると,その既存障害はどのように評価されるのか。
端的に言って,認定された障害等級と既存障害の差で判断されるのか(既存障害に対して新たな障害を言わば加重障害とみるもので加重障害説としておきます。)という問題です。

既存障害があるにも関わらず,社会に適応して生活をしてきたところが,事故により介護を要するあるいは,介護の程度が増大することになった場合に,残存していたものを奪われたことは健常者以上に苦痛があるものと考えます。
労働能力の評価に関わる逸失利益においては既存障害を評価するとしても,後遺症慰謝料は別に解釈すべき余地があるようにも思われます。

さて,この判決は,逸失利益では明らかに加重障害説に立っています。
そして,後遺症慰謝料も1,300万円は,ほぼ後遺障害1級と5級の差に該当します。
すると,後遺症慰謝料も加重障害説に立っていると言えます。

後遺症慰謝料は,逸失利益の補完的な性格を有するとされています。
その点からすると,逸失利益で加重障害説に立つ以上は後遺症慰謝料についても連動することが整合性があると言うことになるのでしょうか。

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