既存の認知症(9級相当)がある被害者が後遺障害1級となった場合に関する判決です。

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徘徊傾向を伴う認知症の被害者(女性当時84歳)が,事故の受傷により骨折して入院が長期(406日)にわたったことから認知症が増悪して併合1級(1級3号を含む)となった事案です。

認知症を既存障害9級相当として,逸失利益については労働能力の差額65パーセント喪失として,また後遺症慰謝料1800万円が相当としました。
なお,過失相殺については,徘徊傾向を伴う認知症であったことから「せず」としております。

ただし,判決は,全体の損害額に対してさらに認知症の寄与があったとして3割の素因減額をしています。

京都地裁 平成14年6月6日判決(確定)
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1457号(平成14年9月5日掲載)

【事案の概要】   (クリックすると回答)


84歳女子徘徊傾向を伴う認知症の被害者は,平成9年12月12日午前1時50分ころ,片側2車線道路の左側を歩行中,飲酒,速度超過の被告運転の乗用車に衝突され,右前額部挫創,左下腿骨骨折等で406日入院し後遺障害等級1級3号及び同8級7号に該当する左足関節の機能障害(ほぼ完全強直)の各後遺障害(併合1級)を残して2年後死亡しました。
事故で重傷を負って認知症を増悪させて亡くなったという事案です。

【判決の趣旨】  (クリックすると回答)


事故前の認知症の程度についてはショートステイを繰り返して徘徊傾向があったが一定の家事労働をしていたとして既存障害である認知症を相続人である原告の主張の通り9級10号相当としました。
なお,後遺症慰謝料は既存障害「年齢や家族構成」等から1,800万円を認めました。
さらに,それらの損害について,さらに認知症を素因として3割の寄与度減額を致しました。

また,50キロメートル制限速度横断禁止国道を相当量の飲酒をした上で約80キロメートルで走行させていた加害車に対し,歩道でなく車道歩行であるが,84歳の高齢者で,認知症が相当程度進行していたことも考慮し,過失相殺を行わないとしたものです。

【コメント】  (クリックすると回答)


既存の認知症がある高齢者が事故による入院後に認知症が悪化して寝たきりの重篤な後遺障害(本件では1級)が残った場合に,認定等級のとおりの後遺障害としての逸失利益,後遺症慰謝料が認められるかどうかです。

この点について,自賠責の等級認定の考え方である加重障害と同じ考え方(加重障害説)とする判決例が比較的多く認められます。

本件判決は,逸失利益については,既存障害(既に生じていた徘徊を伴う認知症)を9級相当として1級の喪失率(100%)と 9級の喪失率(35%)の差である65%を前提に算定しました。この部分では,加重障害説によっていると言えます。

他方で,後遺症慰謝料については,1800万円を相当としました。平成11年当時の後遺症慰謝料は,1級2600万円,9級640万円です。
したがって,単純にその差額では,1960万円となります。

加重障害説を単純に適用するとすれば,1800万円ではなく1960万円となるべきところ,それよりも低い金額になっています。この点では,加重障害説を一貫させているわけではないとも言えます。

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