軽度の意識障害であったが,びまん性軸索損傷による事故と高次脳機能障害との因果関係を認めた判決です。東京地裁交通部合議平成24年12月18日判決,赤い本平成28年版p118

[びまん性軸索損傷,意識障害,自賠責,非該当,高次脳機能障害]

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東京地裁 平成24年12月18日判決
<出典> 自保ジャーナル・第1893号(平成25年5月9日掲載)

自動二輪車を運転中の被害者(28歳男子)は,車線変更をした加害乗用車と衝突して,事故の発生から約26分が経過した平成18年11月18日午前8時36分ころ,B病院に救急搬送された。被害者には,意識はあったが,事故の記憶がないなどの健忘の症状があったことから,自賠責では非該当だった高次脳機能障害については因果関係を認めました。
また,等級については,法廷でも「被害者の発語は緩慢であり,個々の供述は,おおむね1語の主語又は目的語と動詞のみで構成されている。また,被害者は,尋問当日の暦年を平成18年と供述し,妻の年齢は分からないと述べ,妹については,実際には婚姻しているにもかかわらず,婚姻していないと供述した」ことなどから,後遺障害等級表でいえば,同表第二の第5級2号に相当するものというべきであると認定しました。

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(判決の内容)
1 意識障害
受傷当日である平成18年11月18日から遅くとも同月20日までの間,健忘を中心とする軽度の意識障害があったことが認められる。
上記の意識障害の程度は,改訂自賠責調査基準で示された意識障害の水準には達しないものである。
しかし,同基準は,高次脳機能障害の判定基準そのものではなく,同基準においても,重度の意識障害が6時間以上継続したこと若しくは健忘又は軽度意識障害が1週間以上継続したことは,脳外傷による高次脳機能障害を疑うべき症例の指標の1つにすぎないものと位置づけられている。また,受傷直後の意識障害が軽度であった事例においても,1年後に中程度の障害が残存した例は19%あるとの調査結果がある。これらの事実を考慮すると,被害者にみられた意識障害が重度のものではなく,かつ,1週間以上継続するものでなかったとしても,そのことをもって,本件事故により高次脳機能障害の原因となる脳外傷を負わなかったということはできない。

2 画像所見
①本件事故発生の日に行われた頭部X線検査において,右側頭部に線状骨折が認められたこと,
②同日に行われた頭部CT検査において,左側頭葉の先端部に出血を疑わせる所見が認められ,その後のCT検査及びMRI検査において,被害者の頭部の左側に脳挫傷痕が認められていること,
③本件事故発生の日から5ヶ月以上が経過した後の検査画像においては,軽度の脳室の拡大及び局所的な脳萎縮が認められることに加えて,
④平成20年2月1日に行われたPET及びSPECTの結果,脳の機能低下を示す糖代謝低下や脳血流の低下が広範囲に認められたことを併せ考慮すると,脳実質は,本件事故により広範囲にわたって損傷を受けたものと推認される。
以上の事実は,本件事故によりびまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆するものである。

3 後遺障害の程度について
被害者には,ふらつきやめまいの症状がみられる(ほか,前記2で認定したとおり,発語が緩慢で,同じやりとりを繰り返さないと意思疎通ができないことがある,記憶力に障害があり,1人での帰宅や公共交通機関の利用はできない,怒りやすい一方で,物事に対する関心が薄いなどの後遺障害がみられる。
そして,複数の医師が,被害者を診察した結果等を踏まえて,少なくとも被害者が1人で就労することは困難であるとの見解を示していること,
平成24年7月から始めた店舗における作業も皿洗い等の単純作業に限られていることを併せ考慮すると,
被害者が1人で通常の労務に服することはできないというべきであり,被害者は,本件事故を原因とする高次脳機能障害が残存しているため,他人の介助又は指示の下で軽易な労務に服するか,1人できわめて軽易な労務に服することができるにとどまるというべきである。
したがって,被害者は,本件事故により,単独での就労がきわめて軽易な労務に制限される程度の後遺障害を負ったというべきであり,その程度は,後遺障害等級表でいえば,同表第二の第5級2号に相当するものというべきである。

(コメント)
1 意識障害
この判決は,「改訂自賠責調査基準で示された意識障害の水準には達しない」ものであっても高次脳機能障害を発症する脳外傷があることを認めています。
改訂自賠責調査基準とは,平成23年3月4日付けの「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」と題する報告書(平成23年報告書)を前提としています。
同報告書においても,
「意識障害の評価の方法として、目を開けているか、話すことができるか、手足を動かすことができるかを観察して15点満点で評価するグラスゴー昏睡尺度(GCS)があり、急性期のGCSで3~8点は重度損傷、9~12点は中等度損傷、13~15点は軽度損傷と分類される。予後との関連で、多くの研究結果が示されている。
GCS13点以上で意識障害が短時間の場合でも、急性期には約半数で高次脳機能障害がみられ、3ヶ月までにほぼ消失する経過をたどる。入院時のGCSが13点以上の例で、1年後にほぼ正常の生活を送っている例は63%、中程度の障害が残存している例は19%とする調査結果がある。」
として,意識障害の程度と後遺障害はおおむね関連するものの,意識障害の程度が軽度であっても「中程度の障害が残存している例は19%とする調査結果がある」という事実を重視したものです。

2 画像所見
意識障害の程度は軽度であっても,本件ではCT検査及びMRI検査において脳損傷を示す所見が得られています。
実質的には,その点が判断にも影響していると考えられます。
CT検査及びMRI検査において正常所見であったならば,PET及びSPECTの結果が出ていたとしても結論は正反対になっていたと思われます。

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