Q.複視とは,何ですか。その後遺障害(後遺症)は,どうなっていますか。
複視とは,ものが二重に見える眼球運動の障害です。
二重に見えるとは,1つの物体が2つに離れて見える状態を言います。
そして,それは眼を動かす筋肉の麻痺によるものです。
後遺障害等級は,
正面視(まっすぐに見た際に)で複視を残すものについては10級2号,
正面視以外(まっすぐ以外を見た際に)に残すものについては13級2号となります。
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なお,詳細は続きをご覧ください。
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複視(diplopia)とは,1つの物体が2つに離れて見える状態を言います。
眼球の運動は各眼6つの外眼筋により行われています。
この外眼筋に麻痺が生じると,麻痺している筋の緊張が失われて,それに拮抗している筋の力が優位となって,一眼の視線が目標とは別の方向に向かうようになってしまいます。
つまり眼球偏位(眼位のずれ)が生じて,その自覚症状が複視です。
なお,複視とは,両眼の視線が正しく目標に向かない状態(眼位異常)があり,これに両眼視の異常や視力の異常を伴う症候群を言います。
健眼に見える像を真像true image,
麻痺している眼に見える像を仮像false image
といいます。
なお,仮像が麻痺眼と同じ側に現れる複視を同側性複視と言い,外直筋(右眼ならばそれを正面から見た場合に左横,つまり外向きに付いている筋)の麻痺で見られるものです。
それは右眼外直筋が麻痺していると内直筋(右横,つまり内向きに付いている筋)が拮抗して引っ張られて右眼が内斜視になっているからです。
逆に仮像が麻痺眼の反対側に現れる複視を交叉性複視と言い,内直筋の麻痺で見られるものです。
それは,内直筋の右眼麻痺ならば同側性複視とは逆に右眼が外斜視になるからです。
2 「複視を残すもの」とはどういうものですか。 (クリックすると回答)
「複視を残すもの」とは,次のいずれにも該当することが必要です。
a. 本人が複視であることを自覚していること(自覚症状)
b. 眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること(原因の存在)
c. ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向又は垂直方向の目盛で5度以上離れた位置にあることが確認されること(複視状態の客観的確認)
☆ヘススクリーンテストとは,指標となる物体を赤緑ガラスで見たときの片側の赤像,他眼の緑像から両眼の位置のずれを評価する検査方法です。
a. 本人が複視であることを自覚していること(自覚症状)があり, c.ヘススクリーンテスト で確認できる場合は,ままあります
しかし,
b. 眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること(原因の存在)が重要です。
裁判例としても眼窩骨折による場合
(名古屋地判平成19年9月21日 平成25年版赤い本p97,98)
あるいは,
頭部外傷,硬膜下血腫を伴い滑車神経麻痺による場合
(東京地判平成18年12月25日 平成25年版赤い本p97)
いずれも,頭部打撲,顔面打撲という受傷機転が明らかな場合で原因の存在は認められているものです。
なお,複視は外眼筋麻痺により起こりますが,滑車神経麻痺はレアと言われています。
その点では貴重な判決例です。
3 10級2号と13級2号の違いは何ですか。 (クリックすると回答)
①正面視で複視を残すもの
=ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたもの
→10級2号
②正面視以外で複視を残すもの
=①以外の場合
→13級2号
4 単眼性複視の場合はどうなりますか。 (クリックすると回答)
単眼性複視とは,水晶体亜脱臼,眼内レンズ偏位により生じるものであって,眼球の運動障害により生じるものではないために,視力障害(いわゆる視力の低下)として評価されます。
5 複視に伴う頭痛等の神経症状は,後遺障害(後遺症)になりますか。 (クリックすると回答)
複視を残す場合には,併せて(見づらいこともあって)頭痛等の神経症状を残すことが多いですが,これについては複視に派生して生じることから,症状としては複視とは別途に独立して評価はされないとなっています。