Q.失語症の原因と症状にはどのようなものがありますか。

[ウェルニッケ,ブローカ,人の名前が思い出せない,健忘,失語,物の名前が出てこない]

A.

失語症とは大脳の特定部分の損傷によって,言語を話したり書いたりあるいは理解したりする能力が低下したり失われることです。損傷した部位等によりその症状程度が異なってきます。

1 失語症とは
失語とは大脳の特定部分の損傷(局所的損傷)によって,
(1)言葉を話すこと(2)文字を書くこと(3)言葉を聞いて理解すること(4)文字を理解すること(5)復唱すること(いわゆるオウム返し),の1つ以上が障害された状態を言います。そして,その状態は病態であるために失語症と言われるのです。

なお,程度の差はあってもすべてが同時に障害されることが多く,1つが単独で障害されることは希であると言われています。


2 失語症の分類と損傷部位の判別
次の8つの言語操作でどれが障害され,どのような誤反応をするかで障害のパターンや誤回答の特徴から臨床型に分類され,障害部位が想定できるとされています。
①自発話②口語理解③復唱④読解⑤音読⑥自発書字⑦書取⑧写字


3 ウェルニッケ失語症とブローカ失語症
いずれも失語症の解明と脳の中での言語中枢をつかさどる部位の特定につながった先駆的なものです。

(1)ウェルニッケ失語症(皮質性感覚失語)
聴覚的な言語理解の障害が中心です。音としては聞こえているのですが,言語の意味が分からない,語義だけではなく語音の把握も障害されていると見られています。
復唱も障害されています。
感覚性コントロールがなくなるために自発言語にも特徴的な障害が現れます。
流暢多弁ですが,錯語と言う会話が理解できないほどの言い間違いや,言葉を取り違えることが多くなり,わけのわからないことをしゃべり続けることが多くなります。
文字言語では特に書取が悪いとされています。

ところで,大脳は左右の半球に分けられ,それがさらに前頭葉・頭頂葉・後頭葉・側頭葉に分けられます。
また,大脳は左右の半球に等しく機能があるのではなく例えば言語に関する機能は多くの人は左半球にあります。この様な特定の機能が存在する方を優位半球と言います。

側頭葉は聴覚認識に関する中枢ですが,優位半球の1次聴覚野近くにあるのがウェルニッケ野(感覚性言語中枢)です。ウェルニッケ野が障害されたものが,ウェルニッケ失語症(皮質性感覚失語)です。

(2)ブローカ失語症(皮質性運動失語)
自発話及び自発書字の障害を中心とする失語です。自発話が少なく,遅く,リズムや抑揚が乏しく,話せる句の長さも短いといった特徴があります。
他人の言葉の理解は正常であり他の知的機能も正常です。

優位半球の前頭葉内のブローカ野(運動性言語中枢)が障害されたものがブローカ失語症(皮質性感覚失語)です。
現在では,全失語からブローカ失語症に移行するものと考えられ,ブローカ野(運動性言語中枢)が障害されただけでは,一過性のものとして回復に向かうとされています。
但し,大脳皮質だけではなく深部白質(大脳皮質下の脳深部構造は神経線維が集まる白質と神経細胞が集合した灰白質からできています。)の損傷が伴うと,永続的なブローカ失語症が残存するおそれがあるとされています。


4 超皮質性失語
(1)超皮質性運動失語
症状としては,話そうとする衝動が障害されており,自発話は少ししかあるいは全くありません。しかし,言葉の理解と復唱は良好です。
音読,文字の理解,書取,自発書字は軽度の障害が多いとされています。
現在では,超皮質性運動失語は,優位半球前頭葉及び脳深部構造の白質の損傷で起こると考えられています。(かつては,概念中枢とブローカ野(運動性言語中枢)の連絡が切断されて生じると考えられていました。)

(2)超皮質性感覚失語
症状としては,口語の理解障害,書き言葉の理解障害,自発話の障害,自発書字の障害,書取障害,音読障害がありますが,復唱は不自然ながら(エコラリア)保たれています。

現在では,優位半球の中側頭回後部と下側頭回後部の損傷によって生じるとされています。あるいは,優位半球の頭頂部背外側の損傷によって生じるとするものもあります。(かつては,概念中枢とウェルニッケ野(感覚性言語中枢)の連絡が切断されて生じると考えられていました。)

5  健忘失語(失名辞失語)
物品の名前が特に思い出せないことが強く障害されているものです。言語理解はよくて自発言語も特に不自由はしません。
但し,必要な一般名詞がすーっと出てこないのです。読み書きには不自由はありません。側頭葉の後半領域の損傷によると言われていますが,確定していません。

6 伝導失語
症状としては,
①自発話は,ウェルニッケ失語症のように流暢です。
②錯語と言う会話が理解できないほどの言い間違いや,言葉を取り違えることが多いです。しかし,口語の理解は,日常会話の理解にはそれほどの困難を示しません。
③復唱は,重度の障害があります。
④読解の障害があります。
⑤音読の障害があります。
⑥自発書字の障害があります。
⑦書取の障害があります。
⑧写字の障害があります。
伝導失語は,頭頂葉の縁上回の損傷によって生じるとされています。なお,脳の回と溝とは,脳のしわが盛り上がった部分が回でしわの溝の部分が溝です。

7 全失語
通常は,すべての言語機能が重度に障害された失語,あるいはウェルニッケ失語症とブローカ失語症の合併したものを言います。
左前頭葉,左頭頂葉,左側頭葉のすべてが損傷された場合に発症します。
但し,受傷当初は,全失語でもブローカ失語症に変化するものも多くあるといわれています。

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