Q.直接の被害者ではない近親者あるいは会社等が休業損害を請求することはできますか。

[会社役員,外注費,子の死亡に対する親の損害,間接損害,間接被害者]

A.

一般的に間接被害者あるいは,損害から見て間接損害といわれているものです。

会社が,その役員が事故によって就労できないのに役員報酬を支払っていた場合には,それを会社の損害(間接損害)として認められます(判決例1)。

事故後の看病で被害者の両親である個人事業主が休業した場合にその休業損害は認められます(判決例2)。

海外でのツアーコンダクターの個人事業主が,事故による母親の死亡によって途中帰国したため委託業務が解除された場合の損害は認められます(判決例3)。

ジャーナリスト,執筆業の個人事業主が,事故による母親の死亡によって,休筆したり執筆者の交代となった場合の損害は一部の範囲で認められます(判決例4)。

社長兼従業員の零細企業の場合に事故により就労ができない期間に外注をした場合の外注費は損害として認められます(判決例5)。

会社社長が就労できない場合に会社そのものの休業損害は,零細企業で社長自身が技術専門であるような状況であれば認められます(判決例6)。


なお,判決例の詳細は続きをご覧下さい。

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判決例1 間接損害として役員報酬について会社の損害として認めた判決です。
【いわゆる赤い本平成25年版p67の判決】 
会社役員が傷害を受け,不就労の間にも会社が役員報酬を支払った場合に,支払った報酬のうち労務対価報酬部分につき,不就労の割合に応じた分を会社の損害として認めた(東京地判昭和61年5月27日)。
なお,
自動車保険ジャーナル・第661号
交民集19巻3号716頁
判例タイムズ621号162頁
判例時報第1204号
【コメント】
会社役員に関して,事故による受傷のために実際には就労できないにもかかわらず,役員報酬が支払われることがあります。
被害者本人である会社役員としては,いわゆる休業損害としての損害はありません。
しかし,役員報酬を支払った会社としてそれが損害となるのかという問題です。直接の交通事故による被害者ではないものの損害であるために,間接損害といわれているものです。本件判決は,「被告Bの原告Aに対する加害行為と同原告の受傷に起因する原告会社の右出捐による損害との間に相当因果関係の存することを認めるのが相当であるから」という理由で認めました。

判決例2 間接損害として死亡した被害者の両親の休業損害を認めた判決です。
【いわゆる赤い本平成25年版p67の判決】 
事故により受傷した被害者の父母につき,その経営する浴場を休業した場合に,確定申告の年収をもとに休業損害を認めた(大阪地判平成5年9月6日)。
なお,自動車保険ジャーナル・判例レポート第115号-No.19 交民集26巻5号1169頁
【コメント】
俗に言う跡取り息子を亡くされた痛ましい事故です。
そして,275日間の入院生活後に死亡されたということですから,その間の心労がいかなるものであったのか,想像するに難くはありません。
さて,本件判決は,浴場を経営する両親が入院中の被害者を介護した期間の休業損害が問題となりました。直接の被害ではない間接損害の1つであります。結論としては,肯定しました。

判決例3 間接損害として死亡した被害者の娘の営業損害を認めた判決です。
【いわゆる赤い本平成25年版p67,68の判決】 
事故により死亡した民謡及び三味線師範(女・77歳)の娘(ツアーコンダクター)につき,英語学校経営者から東南アジアに向かう役員に同行して現地関係者を紹介し学校開設交渉を整える等の義務を含む1年間の学校開設援助業務(月額50万円,総額600万円)の依頼を受けていたところ,
出発予定日の3日前に母が事故で死亡したことにより役員に同行できず契約を解消された場合に,これを事故による損害と認めたが,
業務が1年間遂行されることがほぼ確定していたとまでは言えないこと,業務計画の頓挫には娘の個人的な体調不良の影響もあることから,半額300万円を娘固有の損害と認めた(大阪地判平成14年1月22日)。
なお,自動車保険ジャーナル・第1441号(平成14年5月9日掲載) 交民集35巻1号68頁
【コメント】
親族の死亡,とりわけ最愛の母親の事故による死亡によって,進めていた事業計画が頓挫した場合に,事故がなければ得られたであろう営業報酬が因果関係のある損害と言えるかどうかが問題となりました。
判決は,「本件事故により,現地での開校準備に支障が生じたため,結局,本件契約が解約されたことによって,原告磯部は報酬を得られなかったことは,本件事故による損害と認めることができる。」と因果関係を肯定しました。しかし,

「本件事故がなくとも業務が1年間遂行されることがほぼ確実であるとまではいえないこと,本件事故により引き起されたものとはいえ,原告磯部の個人的体調不良が影響したこと」などから,その全額である1年間分ではなく,半額の範囲としたものです。

判決例4 間接損害として死亡した被害者の子の営業損害を認めた判決です。
【いわゆる赤い本平成25年版p68の判決】 
事故により死亡した被害者(女・80歳)の次女(ジャーナリスト,出版物・テレビ番組等の企画・編集)につき,葬儀等から雑誌記事の休筆や執筆者を交代せざるを得なかった場合に,次女が経営する会社の減収分もその実質は次女個人の損害と評価し得るとし,事故直後の期間(1,2週間)に限って事故と相当因果関係があるとして,393万円余を次女固有の(東京地判平成17年6月21日)。
なお,交民集38巻3号818頁
【コメント】
死亡した被害者(甲野花子)の子である原告甲野春子はジャーナリスト等としてその活動に支障を来して報酬を減収させた場合に,その間接損害をそもそも賠償請求することができるのか。
できるとして,その範囲が問題となったものです。
判決は,「本件事故による影響で,原告甲野春子が仕事を減少させた事実があったとしても,原則的に間接被害者の損害として損害賠償の対象とならない」との原則をまずは述べています。
しかし,「例外的に本件事故と相当因果関係ある損害として認め得るのは,本件事故直後の期間(せいぜい1~2週間)において,葬儀に出席又は関与する等の事情から延期又は中止せざるを得なかった仕事の範囲にとどまると解するのが相当であり,これを超える部分については,予見可能な損害の範囲を逸脱していると言わざるを得ない。」として,限定された範囲では例外的に認めるということを一般論で示しています。
その結果として,それを踏まえて個別的に検討をして具体的損害を認定しています。

判決例5 間接損害として会社が支出した外注費を認めた判決です。
【いわゆる赤い本平成25年版p68の判決】 
受傷した代表取締役が全額出資して設立し,その母が名目的取締役となっているものの,受傷本人と取締役であるその妻以外に実際に業務に従事しているものがいない空調設備業会社につき,受傷本人が医師から現場作業を禁止された事故後約3ヶ月の間に会社が支出した現場作業の外注費用63万円余を会社の損害として認めた(名古屋地判平成19年10月26日)。
なお,交民集40巻5号1386頁
【コメント】
零細会社の社長が受傷した場合に,請け負っている仕事を外注した費用についても損害賠償請求することができるのかという問題です。
本件においては,「実際に原告会社の業務に従事しているのは原告松男と花子(注:松男の妻)の2人のみであって,他に常時雇用している従業員はいない。」会社であり,「原告会社は,必要に応じて,乙川等の外部業者に下請負工事を発注するなどしている。」という実態もありました。
そこで,「原告会社としては,受注していた工事について,本来原告松男が行うはずであった現場作業の遂行を,乙川を通じ,丙山に依頼したこと」および「原告会社は,丙山が,一定期間に,上記依頼にかかる作業を行った対価として,丙山に対し,乙川を通じ,合計63万0,900円を支払ったことが認められる。」という事実から「原告会社が支払うことを余儀なくされた支出であって,本件事故との間に相当因果関係を認めることができる。」と判断したものです。

判決例6 間接損害として代表者の役員報酬減収分の休業損害とは別に,会社の休業損害250万円を認めた判決です。
【いわゆる赤い本平成25年版p68の判決】 
代表者が受傷した航空測量会社につき,事故前年は赤字であるが,技術者が代表者1名,従業員は2名で,航空測量には技術者が必要で技術者抜きでは営業も成り立たないとして,事故による現実の売上の減少があることなどから,民事訴訟法248条により口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を総合し,代表者の役員報酬減収分の休業損害とは別に,会社の休業損害250万円を認めた(名古屋地判平成20年12月10日)。
なお,自動車保険ジャーナル・第1786号(平成21年6月11日掲載)
【コメント】
零細会社の社長が受傷した場合に,売上高の減少について損害賠償請求することができるのかという問題です。
しかも,本件では,事故前年は赤字の会社でした。
本件においては,「原告会社は,技術者は原告太郎1名,従業員は2名であり,航空測量は技術者がいなければできず,原告会社の営業も成り立たない」とまずは述べて,「売り上げが落ち込んでおり,これらの事情を総合すると,本件事故による原告太郎の傷害と原告会社との損害との間には相当因果関係が推認される。」と社長兼唯一の技術者の受傷と売上高の減少の「相当因果関係が推認される。」としたのです。
しかし,治療期間における「売上高から固定費を控除した金額」すべてが損害となるものではないと述べています。そして,裁判所の裁量をもって金額を250万円と認めたものです。
なお,「営業活動をしており,原告太郎ら及び従業員に報酬等を支払っていたものであるから,単に赤字であるからといって直ちに損害が発生しないということはできない。」という指摘については,会社の損害を認めるに当たっての一般論として当てはまるものと言えます。

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