Q.胎児を交通事故によって死産した場合に慰謝料は認められますか。

[シートベルト,慰謝料,死亡,死産,胎児]

A.

胎児の母親(及びあるいはもしくは)父親の固有の慰謝料として認められます。
判決例として,胎児の妊娠経過週あるいは初産であるかを考慮していますが,金額にかなりばらつきありますが,
現在も,完全ではないものの,
ある程度の「相場」が形成されているものといえます。

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1 胎児は人でしょうか。   (クリックすると回答)


人間は,出生をもって民法上は人として扱われます。
従って,胎児のまま死亡しても胎児としての損害賠償請求権はなく,それを母親(及びあるいはもしくは)父親が相続することはできません。

そこで,胎児ではなく,母親(及びあるいはもしくは)父親の固有の慰謝料としての賠償請求をすることになります。

なお,胎児とは,妊娠8週以降のものを言います。

2 賠償請求が認められるかについて問題点は何ですか。  (クリックすると回答)


まさしく,交通事故により胎児が死産したか,因果関係が問題となります。
つまり,自然の流産ではなく,事故に原因したことが必要です。
母体である母親の受傷状況が重要です。

シートベルトで圧迫され,母親も衝撃から相当な受傷をした場合には通常は認められる可能性が高いと思われます。
しかし,他方では,妊娠してからの経過期間あるいは母親の年齢あるいは経産婦であり,自然流産として争われる事例も多くありますので,難しい面もあります。

3 慰謝料金額は,どのくらいですか。  (クリックすると回答)


判決例の傾向から,以下のことが慰謝料金額を評価する要素となっていると考えられます。
(1)経過した周産期,つまり出産まで,どれだけ時間的に接近していたか
(2)初産かどうか
(3)その後に,妊娠あるいは出産をしたか

事故がなければ無事に出産に至ったのかという蓋然性,つまり事故がなくとも死産・流産のリスクがあったかの比較をしていると思われます。

したがって,出産間近であれば新生児と紙一重として高めの慰謝料額が認められることがあります。

また,慰謝料という精神的苦痛の評価ですので(2)初産か(3)その後に,妊娠あるいは出産をしたかも,重要な要素になるのです。


妊娠30週未満であれば300万円から150万円という幅であり,経過した週数にある程度比例していると,大雑把に言えばなっているように思われます。



判決例1 出産予定日を4日後に控え 初産 母親のみ800万円
判決例2 妊娠36週 母親700万円・父親300万円
判決例3 妊娠約2か月 150万円
判決例4 妊娠27週 250万円
判決例5 妊娠18週 初産 350万円 その後に妊娠なし
判決例6 妊娠6ヶ月 未婚(結婚を1週間後に控え) 300万円(母親も死亡)
判決例7 妊娠7週,高齢・多産出産 200万円(加害者の暴走逃走等考慮)

4 判決例をもう少し詳しく教えて下さい。  (クリックすると回答)


判決例1 出産予定日を4日後に控え 初産 母親のみ800万円
出産予定日を4日後に控えて本件追突事故で被害軽四輪車は大破して,はじめての女児を死産した事故につき,母親に慰謝料800万円を認めました。
高松高裁 平成4年9月17日判決
自動車保険ジャーナル・第994号

判決例2 妊娠36週 母親700万円・父親300万円
妊娠36週の妊婦が追突事故で胎児が死亡した事故につき,被害者である母親に700万円の慰謝料を認め,父親にも固有の慰謝料300万円を認めました。
東京地裁 平成11年6月1日判決
交民集32巻3号856頁
胎児を失ったのは,妊娠36週であり既に正期産の時期に入っており,当時胎児に何らの異常はなかったこと,現在の医療水準を考えれば胎児が正常に出産される蓋然性が高いことが認められる。
すなわち,本件において死亡した胎児は,まさに新生児と紙一重の状態にあり,これを失った両親とりわけ母親の悲しみ,落胆は相当なものであるというべきである。
このように考えると,法律の建前として法人格を有する新生児と胎児の取り扱いに区別を設けることはやむを得ないとしても,出産を間近に控えた胎児の死亡についての損害賠償額は,それなりに評価されるべきと考える。

判決例3 妊娠約2か月 150万円
妊娠約2か月の胎児を失った事案で,腹部に加わった圧力が大きかったこと,妊娠初期における腹部への圧力は流産の要因となるとされ,本件事故による衝撃で胎児が死亡したと,胎児死亡の慰謝料が150万円認められた。
大阪地裁 平成8年5月31日判決
自動車保険ジャーナル・第1196号(平成9年5月15日掲載)
交民集29巻3号830頁

判決例4 妊娠27週 250万円
助手席同乗中の妊娠27週妊婦がシートベルトで腹部を圧迫され,破水し,胎児が死亡した事案で,慰謝料250万円が認められた。
妊娠者とシートベルトの関係につき,事故車が大破した状況から,シートベルトに関係なく,破水等重大な傷害の可能性が高いとされた。
横浜地裁 平成10年9月3日判決
自動車保険ジャーナル第1274号(平成10年12月10日掲載)

判決例5 妊娠18週 初産 350万円
シートベルトが食い込み,妊娠18週で子宮内胎児死亡の初産婦の慰謝料350万円認定 大阪地裁 平成13年9月21日判決(確定)
自動車保険ジャーナル・第1437号(平成14年4月4日掲載)
原告とその夫は,本件事故後,再び原告が妊娠することを待ち望んでおり,原告は,平成13年2月から,月に4・5回,産婦人科に通院して排卵誘発剤等のホルモン投与を受けているが,未だ妊娠するには至っていない。

判決例6 妊娠6ヶ月 未婚(結婚を1週間後に控え) 300万円(母親も死亡)
婚約者との結婚を1週間後に控え,体内に宿していた婚約者の6ヶ月の胎児を失った女性(本人も死亡)の慰謝料300万円を認めた。
大阪地裁 平成17年3月11日判決(控訴和解)
自動車保険ジャーナル・第1613号(平成17年11月10日掲載)

判決例7 妊娠7週,高齢・多産出産 200万円(加害者の暴走逃走等考慮)
41歳女子(妊娠7週,高齢・多産出産)の胎児死亡流産との因果関係認め暴走逃走等考慮し慰謝料200万円認めた
大阪地裁 平成18年2月23日判決(確定)
自動車保険ジャーナル・第1653号(平成18年9月7日掲載)
原告の状況(妊娠7週,高齢・多産出産)から流産率は高かったが,被告車は30㍍手前で原告車に気付き,急ブレーキをかけたが,原告車と衝突後前進してコンクリート柱に衝突させている相当の衝撃があった上に,腹部に青あざもあった等の本件事故がなければ,原告は流産しなかったとして本件事故との因果関係を認めました。

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