Q.労災からの休業補償給付・障害補償給付の金額は,慰謝料から控除されるのでしょうか。

[休業損害,休業補償,労災,慰謝料,損益相殺,通勤災害,逸失利益]

A.

損害として,同一性がある場合には,公平の観点から控除される,つまり損益相殺がされる場合があります。
その対象となるのは,この場合には,休業損害・逸失利益です。
たとえ,民事上の損害賠償額を超えた休業補償給付・障害補償給付を受けて休業損害・逸失利益を超えたとしても,その差額が慰謝料から控除されることはありません。

1 損害賠償における損益相殺とは(クリックすると回答)

交通事故の被害者が,損害賠償の原因と同じ原因によって利益(給付)を受けた場合に,損害額からその利益(給付)を控除する(差し引く)ことを言います。
交通事故が通勤災害である場合に,労災を利用した際に,休業補償給付・障害補償給付を受けることがあり,その場合に損益相殺が問題となります。

2 労災と損害賠償の食い違いとは(クリックすると回答)

労災による休業補償給付の期間と,損害賠償としての休業損害が認められる期間とが一致する場合もありますが,休業補償給付期間が超過することもあり得ます。
また,後遺障害の該当性の有無あるいは,認定等級が異なることもあり得ます。
民事賠償では,過失相殺があることも影響して来ます。それらの場合に,損害賠償額よりも休業補償給付・障害補償給付の合計額が超過することも起こりえます。

3 休業補償給付・障害補償給付は損益相殺として慰謝料も対象となるか(クリックすると回答)

2のように損害賠償額を休業補償給付・障害補償給付の合計額が超過する場合に,超過分を慰謝料から控除できるか,損益相殺の対象とできるかが問題となります。
例えば,民事賠償として休業損害として月額25万円×2ヶ月=50万円,慰謝料として80万円の合計130万円認定されたとします。
ところで,休業補償としては,月額25万円の6割として8ヶ月間,つまり25万円×0.6×8ヶ月=120万円の給付を受けたとします。
すると,休業損害で言えば120万円から50万円を損益相殺しても,70万円超過しています。
この70万円について慰謝料80万円から損益相殺することができるかどうかという問題になります。
答えは,できないということです。つまり損益相殺の対象とはならないのです。

4 どうして慰謝料は損益相殺の対象とならないのか(クリックすると回答)

休業補償給付及び障害補償給付は,いずれも財産上の損害の?補を目的とするものであって,たとえ給付金が財産上の金額(注:休業損害,逸失利益)を上回る場合であっても,その超過分(差額)を慰謝料額から控除することはできないと解釈されているからです。(最高裁昭和58年4月19日判決)

5 最高裁昭和58年4月19日判決とは(クリックすると回答)

労働者に対する災害補償は、労働者の被った財産上の損害の填補のためにのみされるものであって、精神上の損害の填補の目的をも含むものではないから(最高裁昭和35年(オ)第381号同37年4月26日第一小法廷判決・民集16巻4号975頁、同昭和38年(オ)第1035号同41年12月1日第一小法廷判決・民集20巻10号2017頁参照)、前記上告人が受領した労災保険による障害補償一時金及び休業補償金のごときは上告人の財産上の損害の賠償請求権にのみ充てられるべき筋合のものであって、上告人の慰藉料請求権には及ばないものというべきであり、従って上告人が右各補償金を受領したからといってその全部ないし一部を上告人の被った精神上の損害を填補すべきものとして認められた慰藉料から控除することは許されないというべきである。

むち打ちや脱臼、脊髄損傷など、幅広い疑問にもお応えします。ご相談は埼玉の弁護士、むさしの森法律事務所にご連絡ください。

0120-56-0075 受付時間:月~金(土日祝日も対応)午前9時30分~午後10時

フォームからのご相談予約はこちら

ページの先頭へ戻る