Q.外傷性脳梗塞とは何でしょうか。

[動脈血,椎骨動脈,素因減額,脳挫傷,脳梗塞]

A.

脳虚血状態が長くなって,脳実質が壊死したものを脳梗塞と言います。
交通事故による外傷によっても頭蓋外動脈損傷による脳梗塞の発症はあり得ます。
また,判決例では動脈硬化と言った素因に外傷が加わったことによる脳梗塞との因果関係を肯定したものがあります。
但し,かなりの素因減額がなされます。

1 脳梗塞とは(クリックすると回答)

脳の血液量が低下している状態を脳虚血と言います。
その脳虚血状態が長くなって,脳実質が壊死したものを脳梗塞と言います。

2 脳梗塞の発生機序はどのようなものですか(クリックすると回答)

主に3つに分類されています。
(1)血栓性動脈硬化によって動脈壁のアテローム変性等で動脈狭窄となり血栓が形成されたり,プラークが破綻することによって血管が閉塞することによって生じる脳梗塞です。

☆アテロームとは一般に細胞の死骸から構成された動脈血管内での蓄積物であり固まりです。
血栓性で問題になるアテロームは,通常は粥腫(en:atheromatous plaques;プラーク)です。
アテロームは,不健康な状態であり,ほとんどの人で見つかっています。

(2)栓塞性心臓から頭蓋内頚動脈までの間(=頭蓋外動脈)で心臓や大動脈,頚部血管に由来する栓子によって頭蓋内動脈が閉塞されることによって生じる脳梗塞です。

(3)血行力学性頭蓋内外の主幹動脈に高度の狭窄がある場合に加えて血圧低下・脱水があると,その狭窄部を流れている血流が減少して末梢の虚血状態が生じます。

3 外傷性脳梗塞はあるのか(クリックすると回答)

医学的には,頚部への直接的な刺創(:刺し傷),頚部の過伸展による血管損傷を発生し血栓形成などによる狭窄・閉塞による頭蓋外動脈の病変を原因とする可能性があり得ます。
交通事故判決例に見られるのは,頚椎動脈不全によるものがあります。
さらに,脳血流低下を生じる既往症に加えて外傷が寄与した結果として脳梗塞と事故との因果関係を肯定するものがあります。
つまり,危険因子の競合です。その場合には,素因減額が大きくなされています。

4 判決例はどうですか(クリックすると回答)

その1,2は因果関係を否定しています。
その1の理由は頭部打撲が無かったという一言で否定しています。
その2は,外傷性の脳挫傷によるのか,心臓由来の脳塞栓症による脳梗塞なのか因果関係が争われましたが,症状経過から外傷との因果関係を否定されました。

その3は,頸椎捻挫及びこれに合併した外傷性椎骨動脈不全等によると因果関係を認めた判決です。
虚血性による症状として肯定したものであり特出すべき判決です。
しかし,医学的にも機序については意見が対立しており現実にも法廷における医学論争が展開されました。
自賠責でも認定されていると言うことで,それを覆すに足りる反証が無いと言うことだと理解されます。
したがって,先例とすることは難しいと考えます。

その4は,本人の素因として脳梗塞発症の危険因子と事故による精神的負担等の危険因子の競合を認めたという判決です。
したがって,かなりの素因減額がなされました。その5も同じ考え方に立つと思われます。

その6は,画像で虚血性変化が認められることから,残存症状との因果関係を肯定した「特異な」判決です。
すなわち,頭蓋内の虚血性変化への外傷性との因果関係,残存症状と虚血性変化との因果関係について医学的な機序の説明は特にありません。
但し,素因による虚血性変化が否定されるから外傷性という消去法的な認定です。

判決例その1 脳梗塞と事故との因果関係を否定したもの(高松高裁 平成7年9月25日判決(上告)保険金請求控訴事件) 
高校教師Aが2度に亘る追突事故を起こした後,搬送された病院で脳梗塞と診断され,肺炎を併発し死亡したが,頭部を打撲した事実を認めるに足りる証拠はないとして,外傷性ではないとした。

その2 事故による脳挫傷受傷後に脳梗塞となった因果関係を否定したもの(大阪地裁 平成5年3月17日判決損害賠償請求事件)
事故で脳挫傷を受傷した被害者が,脳梗塞に罹患した後,急性心不全で死亡したが,脳梗塞の成因は,主に脳血栓症(アテロ-ム硬化症による動脈の一時的閉塞),脳塞栓症(主として心臓由来の栓子による)等であることが認められるところ,
右認定事実,すなわち,亡太郎の本件事故による傷害は,まだ見当識障害が残り,尿失禁を繰り返すことはあるものの,歩行もでき,CT検査などからは改善傾向にあったこと,入院治療中に心房細動などの心臓疾患を発症したこと,
心臓疾患等の既往症があったことに照らすと,亡誠治の脳梗塞は脳塞栓症による可能性が高いものというべきことになる。

その3 追突による外傷性椎骨動脈不全症,脳幹,小脳梗塞の9級10号の後遺障害を肯定したもの(東京高裁 平成12年8月29日判決(上告),なお自賠責認定も同じ)
頭部外傷頸椎捻挫及びこれに合併した外傷性椎骨動脈不全等に伴う右上肢の無力,右下肢のしびれ,痛み,右耳鳴等の訴える現症状については,受傷当初から症状が明らかに認められるとの所見の推移から見て,本件事故の関与を否定しがたい面が考えられることから,現症状については,所見及び症状の程度等を総合的に評価し,精神神経症状として捉え,「障害を残し,服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの」として,(自賠責が)自賠法施行令後遺障害等級9級10号に該当すると判断していることからしても,右によって,医学的にも,右の因果関係が認められる

その4 主婦が,衝突事故で脳挫傷・硬膜内血腫から脳梗塞を発症したとして,事故との因果関係を認めて7級4号該当性を肯定した(名古屋地裁 平成13年6月29日判決(確定)損害賠償請求事件,但し素因減額)
このような後遺障害は原告の脳梗塞に基づくものであるところ,この脳梗塞は原告の右内頸動脈閉塞に基づくものであること,この右内頸動脈閉塞は本件事故と直接の因果関係を有するとは認められず,原告の脳動脈硬化により生じたものであること,もっとも,原告は糖尿病,高血圧症にり患しており,このような者が脳梗塞を引き起こす可能性は通常人よりはるかに高いが,必ず脳梗塞になるというものではなく,本件事故により精神的負担が増し,血圧が不安定となり,脳血流の自動調節能が破綻し発症するという意味で本件事故が脳梗塞の誘因となった可能性は否定できないことが認められる。

その5 高齢女性(当時71歳)の右肘負傷後の脳梗塞との因果関係を肯定したもの(名古屋地裁 平成14年8月16日判決損害賠償請求事件)
既往症に加えて,本件事故による情動的ストレスと血圧上昇もまた,上記既往症が進行,増悪して本件脳梗塞・本件片麻痺が発症するに至る契機となり,その発症に寄与,加功していたものと認めるのが相当である。

その6 脳内に微小の虚血性変化が生じ,これが原因で左上下肢に疼痛及びしびれが生じたとして後遺障害12級を認めたもの(名古屋地裁 平成16年11月17日判決損害賠償請求事件,素因減額)
原告のMRI画像等により頭部に明確な損傷等が確認されないとしても,原告の前記症状は,本件事故による頭部外傷により,原告の脳内に微小の虚血性変化が生じたことから,左上下肢に疼痛及びしびれが生じ,現在も症状(主として左上肢の症状)が残存していると認めるのが相当である。(なお,救急搬送時において意識は清明)

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