Q.通常のCT・MRIでは得られにくいとされる「びまん性軸索損傷」のような場合に,それ以外のPET・SPECT・拡散テンソル画像等の画像所見があれば,外傷性脳損傷であると判断されることがありますか。

[CT,うつ,グルコース,テンソル,意識障害,拡散テンソル画像,画像所見,高次脳機能障害,FA-SPM,fMRI,PET,SPECT]

A.

通常のCT・MRIでは,高次脳機能障害等の外傷性脳損傷を裏付ける画像所見が得られない場合に,それに代わるものが証明する効力があるのか,自賠責認定さらには訴訟で問題となります。
PET・SPECT・拡散テンソル画像・FA-SPM・fMRI等による画像により認定あるいは証明資料とすることは,現時点では難しいと言うべきです。
受傷時の脳損傷が認められて,一定の意識障害があるにも関わらず,残存する障害を裏付ける通常のCT・MRIによる所見がない場合の補助資料とする余地が残されているだけと言えます。
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なお,詳細は,続きをご覧ください。

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1 どういう場合に問題となりますか (クリックすると回答)

通常のCT・MRIでは,高次脳機能障害等の外傷性脳損傷を裏付ける画像所見が得られない場合に,それに代わるものとしてPET・SPECT等が証明する効力があるのか,自賠責認定さらには訴訟で問題となります。
そして,その多くが,受傷時の意識障害が「一定」レベルには達していない「軽度」の場合が多いとされています。

2 PETとは (クリックすると回答)

PETは,positron emission tomographyの略語です。陽電子放射断層法あるいは,ポジトロンCTともいいます。
医学用サイクロトロンで作られたポジトロン(陽電子)を放出する陽電子放出核種から出された光子(消滅放射線)を画像化したものです。
脳波,活発にエネルギー代謝が行われている臓器です。脳が正常な活動を維持していくためには,絶えずグルコースが供給されていなければならず,それは酸素と共に血液から供給されます。
PETによる脳循環・代謝測定は,この様に脳内の血流循環と,それによるグルコース及び酸素供給が十分でエネルギー代謝に障害が生じていないかを調べることができるのです。

3 SPECT(スペクト)とは (クリックすると回答)

SPECTとは,single photon emission cmputed tomographyの略,つまりシングルフォトンECT のことです。
体内に投与された放射性同位元素(RI radioisotope ラジオアイソトープ)であるγ線放射線核種を対軸の周囲から計測し,コンピュータを用いて解析します。
SPECTによっても脳血流分布が求めることができ,脳循環・代謝測定が可能です。
PETが医用サイクロトロンを必要とするのに対して,それを不要とすることから簡便であるために脳血流量の測定によく用いられています。

4 PET・SPECTは,証拠となりますか (クリックすると回答)

通常のCT・MRIでは異常所見がなくとも,血流低下を示すことがあり,高次脳機能障害の判定に有効な場合があります。
しかし,脳の局所的な代謝低下は,脳が器質的な変化をしていなくとも生じることがあり,それがSPECT等の検査結果に反映されることがあります。
血流や代謝の低下がSPECT等の検査結果に反映され脳全体の機能低下が客観的には示されたことになります。
しかし,それが,どこの機能であるかの特定はもちろん,器質的損傷を示しているものであるか,うつ等による非器質的なものであるかどうかの評価は分かれていると言えます。
さらには,SPECT等の検査結果は,その時点での脳血流・代謝を示すものであり,一時的な異常所見だけでは,脳機能の低下を断定できないという見解も有力にあります。

5 拡散テンソル画像ではどうですか (クリックすると回答)

発達したMRIというべきものですが,神経活動の結合を画像にするものなので,通常のMRIとは,趣が異なるようです。
つまり,水分子が動かないほどMRI信号が強くなると言う性格があります。
すると,神経線維の中に存在する水分子が神経線維の走行方向には動かないので,走行方向には信号が高くなる(強くなる)のです。
それを利用して神経線維の走行を画像化したものが,拡散テンソル画像です。
DTIと略しますが,Diffusion Tensor Imaging のことです。
脳神経外科学さらには,脳科学の知見に大いに利用されていますが,あくまでも神経線維の「機能的」結合を画像とするもので,「解剖学的結合」とは異なると言うことです。
要するに,一定の条件下においては機能をしていない神経線維部分があるというからといって,その部分が損傷して無くなってしまっているとは言い切れないのです。

そこで,拡散テンソル画像による数値低下の所見があっても,外傷性脳損傷の証拠としては,(それだけでは)現在の自賠責認定及び裁判実務においては認められていないと言わざるを得ません。

6 FA-SPM画像ではどうですか(クリックすると回答)

FA:fractional anisotropy は,異方性度あるいは異方性比率と訳します。
SPM:Statistical Parametric Mappingは,「脳機能画像解析などで使われる多変量解析法」あるいは「統計的パラメトリックマッピング」と訳されているようです。
FA-SPM画像とは他のMRIやPETによる画像を数学統計的に処理して得られた画像ないしは解析結果です。FA値の有意な低下域があるとは,白質(神経線維ないし神経線維束)の損傷を示します。
しかし,これがMRICTといった形態画像で所見がない場合に,取って代わる外傷性脳損傷の証拠と現時点でなるとは言えません。形態画像に所見がある場合における補助的資料にとどまるものです。
従って,意識障害が無いにもかかわらず,FA-SPM画像を根拠に自賠責の後遺障害認定申請をることはお勧めできません。
仮に,この画像を根拠にしても非該当になります。
また,裁判をしても,意識障害が無い場合には,非該当を覆すことは不可能と言えます。

7 fMRI脳機能画像ではどうですか(クリックすると回答)

fMRI脳機能画像(functional MRI,fMRI)とは特定の機能を遂行している脳の部位を画像化したものを言います。
つまり,MRIによる脳活動の画像化です。
fMRIは,脳の活動とMRIの信号値(つまり,水素原子からの磁気共鳴信号)との間に相関関係があることを利用しています。
つまり,脳が活動をすると局所的(部分的)に脳の血液量が増加しますが,血液中のヘモグロビンは,酸素が結合した状態(酸素化ヘモグロビン)と酸素が離れた状態(脱酸素化ヘモグロビン)で磁気的な性格が変わるのです。
それを利用しています。
そのことから,まさしく脳活動(あるいは脳機能)の画像化です。
前頭葉の運動野,あるいは,言語中枢(ブローカー野),記憶や感情などのいわゆる高次脳機能といった複雑な活動部位の機能状態を血流の低下があるか否かによって,ある程度推定することができます。

しかし,個人差についてのデータ蓄積が十分ではないようです。また,脳活動も変化しやすいので,それに対応したfMRIのデータしか得られないのが実情だと思います。

「脳機能を科学的に見るという面ではよい方法であるが,現時点では微細な脳機能の低下に対してはまだ使える段階にはない。」
(平成23年3月4日自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について報告書 より)であると言えます。

8  つまるところ裁判所はどう考えるのか(クリックすると回答)

(1) PETについて

現在一般に使用されているのはブドウ糖により細胞活性を見るFDG-PETである。 しかし,
分解能が極めて低いこと,
急性期に検査を実施するのは難しいこと,
形態学的異常がないときに,FDGに差が出たとしても,それがなぜ起きたのかが分からないことから,
PETのみで異常を診断することはできない
(平成23年3月4日 「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告) p6 井田正博医師意見陳述」より)

(2)  DTI(拡散テンソル画像),SPECTについて 

DTI(拡散テンソル画像。MRIを用いた神経繊維の走行を画像化したもので,神経繊維の走行する方向をX軸,Y軸,Z軸に分ける方法)は,
斜めに走行する繊維は表示されないなどの点において,
また,
SPECT(脳血流検査。放射線同位元素を利用して,原子核壊変の際に生じる放射線を測定して脳内血流の活性程度を画像化する方法)は,
神経軸索そのものを撮影したものでない点などにおいて,

外傷性脳損傷の発見の性能において評価が固まっている状態とは言い難い上,これら症状がびまん性軸索障害に特異な所見であるということもできない。

東京地裁 平成25年9月13日判決(控訴中)

(3)  CT,MRI以外の画像所見全体について 

拡散テンソル画像(MR-Diffusion Tensor Imaging),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,
それらのみでは,脳損傷の有無,認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。

東京地裁 平成25年3月26日判決(控訴中)

(4) 現時点での東京地裁を中心とする裁判の流れ 

脳の器質的損傷の判断に当たっては,CT,MRIが有用な資料である。

CTは,頭蓋骨骨折,外傷性クモ膜下出血,脳腫脹,頭蓋内血腫,脳挫傷,気脳症などの病変を診断できるが,びまん性軸索損傷のように,広汎ではあるが微細な脳損傷の場合,CTでは診断のための十分な情報を得難い。

CTで所見を得られない患者で,頭蓋内病変が疑われる場合には,受傷後早期にMRI(T2,T2,FLAIRなど)を撮影することが望まれる。
受傷後2,3日以内にMRIの拡散強調画像DWIを撮影することができれば,微細な損傷を鋭敏に捉える可能性がある。
受傷から3,4週以上が経過した場合,重傷のびまん性軸索損傷では,脳萎縮が明らかになることがあるが,脳萎縮が起きない場合にはDWIやFLAIRで捉えられていた微細な画像所見が消失することがある。
したがって,この時期に初めてMRIを行った場合には,脳損傷が存在したことを診断できないこともある。

これに対し,拡散テンソル画像(DTI),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,それらのみでは,脳損傷の有無,認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。

東京地裁 平成25年9月6日判決

(5) 裁判の流れをどう見るのか 
(4)で御紹介しました東京地裁 平成25年9月6日判決によれば
①CT,MRIが有用な資料である。
②CTでは診断のための十分な情報を得難い。
③MRIについて受傷早期に受ければ損傷をとらえることはできるが,その後の経過による脳萎縮を必ずしもとらえることはできない。
④拡散テンソル画像(DTI),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,それらのみでは,障害程度を確定的にとらえられない。(だから採用できない。)
と言っているようです。
また,これが東京地裁民事交通部の基本的な考え方であり,全国的な潮流を示していると
言ってもいいと思います。
そして,これは平成23年3月4日報告の井田医師による「主役はCT,MRIであるが,重要なことは適切な時期にきちんとした検査が行われることである」と言うことに符合しているものです。

確かに,判決ではCT,MRIが有用な資料と言っておきながら,その一方では不十分さも認めているので,他の画像所見で異常が指摘されている被害者は納得がいかないのは理解できます。
ところで,判決例の流れは,「有用」だが「頼りない」CT,MRI所見を絶対とするものではないと思われます。すなわち,それら以外を総合判断する上での1つの判断材料とする可能性は残っていると言うべきです。

PETおよびSPECTの結果から,脳の機能低下を示す糖代謝低下や脳血流の低下が広範囲に認められたことを考慮材料の一つとして事故との因果関係を認めた判決例も出されております(東京地裁平成24年12月18日)。

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