Q.交通事故後に,近くのものが見えにくくなったのですが,老眼でしょうか。後遺障害(後遺症)でしょうか。

[ジオプトリー,水晶体,眼球,瞳孔,調整力,調整機能]

A.

老眼になる年齢でないとしたら,事故による調節機能の障害の疑いがあります。
眼の調節機能とは,眼全体の屈折力が増して近くの物体が網膜に明瞭な像を結ぶ機能を言います。

外傷により,この調節機能が低下した場合に後遺障害に該当します。

1 眼の調節機能障害とは何ですか。   (クリックすると回答)


年齢とともに,眼球の水晶体の弾性が低下して調整力は減退します。
これが,いわゆる老眼です。

調整力と年齢との関係は,以下のとおり5歳毎の年齢別に基準値があります。

15歳:9.7D
20歳:9.0D
25歳:7.6D
30歳:6.3D
35歳:5.3D
40歳:4.4D
45歳:3.1D
50歳:2.2D
55歳:1.5D
60歳:1.35D
65歳:1.3D
なお,レンズの度(D:ジオプトリー)で表したものが眼の調整力です。

通常の調整力よりも低下したものが,眼の調整機能障害です。
後遺障害の該当性には,さらに「著しい」という要件が必要です。

2 後遺障害(後遺症)は,どうなりますか。  (クリックすると回答)


1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの→12級1号
両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの→11級1号

(1)「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」が,後遺症の該当には必要です。
眼球に著しい調節機能障害を残すものとは,調整力が通常の場合の1/2以下になったものを言います。
(2)受傷したのが1眼
受傷したのが1眼であって,受傷していない方の眼の調整力に異常がない場合には,その異常がない眼との(健側の眼を通常として)比較により行います。

受傷したのが1眼であって,受傷していない方の眼の調整力に既に異常がある,つまり健眼がない場合には,上記にある標準値との比較により行います。
なお,受傷していない眼の調整力が1.5D以下である場合には,実質的な調整の機能は失われているので後遺障害の対象とならないとされています。

そこで,一般的には,55歳以上であるときには,受傷していない方の眼の調整力は,既に1.5D以下となっていることが多いことから後遺障害の対象にはならないと思われます。

(3)両眼が受傷
両眼が受傷した場合は,比較するものがないために,上記にある基準値との比較により行います。
例えば,40歳で2.1Dであれば,基準値4.4Dの1/2は,2.2Dですから,それ以下と言うことで「著しい調節機能障害を残す」に該当します。

3 眼の調節機能とは何ですか。  (クリックすると回答)


眼の調節機能とは,水晶体の屈折力が増すことで,眼全体の屈折力が増して近くの物体が網膜に明瞭な像を結ぶ機能を言います。
要するに,水晶体が膨らむことで近くの物体がよく見えることを言います。
虫眼鏡で小さいものを拡大してみる状態に似ています。

眼の調節を休んで調節を全くしないときに,網膜の中心に像を結ぶ外界の点を遠点,逆に最大に調節したときに,網膜の中心に像を結ぶ外界の点を近点といいます。

そして,遠点-近点の範囲を調整域といい,遠点-近点間距離をレンズの度(D:☆ジオプトリー)で表したものが眼の調整機能の力である調整力です。

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4 ジオプトリーとは何ですか。  (クリックすると回答)


Dは,diopterの略で,Dは,レンズの焦点距離f(m)の逆数です。
D=n/f 
nは屈折率であり,空気中はn=1.0です。/は,分数を表す記号です。
すると,空気中では
D=1/fとなります。

調整力をA(D),遠点距離(遠点における外界の点との距離=遠点での焦点距離)をf(m),近点距離(近点における外界の点との距離=近点での焦点距離)をn(m)とすると,
A=1/n - 1/f つまり,近点距離の逆数から遠点距離の逆数を引いたものが調整力となります。

1/nとはn分の1,1を分子にnを分母にすると言う意味です。1/nは,nに対して分子と分母を入れ替えた逆数となります。
それは,近点距離の逆数が近点の屈折力であり,遠点距離の逆数が遠点の屈折力であるから,近点と遠点の屈折力の差が調整力として示されるからです。

例えば,近点距離25㎝(0.25m),遠点距離1mであるとすると,
A(D)=1/0.25-1/1=4-1=3となります。

5 眼球の構造はどうなっていますか。  (クリックすると回答)


眼球は,ほぼ直径約24㎜の球形です。眼球壁は3つの膜から成り立っています。
外膜・中膜・内膜です。

外膜は角膜と強膜からなっています。
中膜は虹彩・毛様体・脈絡膜からなっています。
内膜は網膜です。

外膜は,眼球内容を保護しています。
中膜は,血管と神経の通路となっています。
虹彩は,その中央にある瞳孔を拡大あるいは縮小して眼球に入る光の量を調整します。

毛様体は,水晶体を支持してその弯曲を調節します。
脈絡膜は,外部からの光を遮断します。

内膜の網膜は,眼球の最も重要な組織です。

眼球の内容は,房水・水晶体・硝子体です。
水晶体は凸レンズです。
虹彩から入った光は,水晶体で屈折されて硝子体を通り網膜上で像を結びます。

眼の調節機能に関するのは,水晶体と毛様体です。

毛様体は水晶体を支持していますが,毛様体中の輪状筋が収縮すると水晶体がその弾性から前に膨らんで厚みを増して屈折力が増加して近くのものが見えるようになるのです。
逆に輪状筋が弛緩すると弾性から水晶体は扁平となり遠くのものに焦点が合ってよく見えるのです。

眼球断面図

眼球断面図2.jpg

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