事故と無関係な原因で死亡しても後遺障害逸失利益には影響しません。いわゆる貝採事件 最高裁平成8年4月25日判決

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交通事故で後遺障害となり,その後事故とは無関係な原因で死亡しても後遺障害逸失利益には影響しないとした判決(貝採事件判決)です。

最高裁平成8年4月25日判決
自動車保険ジャーナル・第1157号
交民集29巻2号302頁
いわゆる逸失利益の算定に当たっては,その後に被害者が死亡したとしても,右交通事故の時点で,その死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解すべきである。

【事案の概要】   (クリックすると回答)


被害者(当時43歳)は,昭和63年1月10日午前7時20分頃,小型貨物車に同乗中,カーブを曲がりきれずに中央線を越えてきた大型貨物車に衝突され,脳挫傷,頭蓋骨骨折等で77日入院,延べ459日に87日実通院の後,精神,神経障害と肩関節運動障害で6級相当の後遺障害の症状固定の7日後,貝採りで海に入って心臓麻痺で死亡しました。

被害者の遺族は,相続人として6級相当の後遺障害を前提とする損害賠償を求めました。

【判決の趣旨】  (クリックすると回答)


いわゆる逸失利益の算定に当たっては,その後に被害者が死亡したとしても,右交通事故の時点で,その死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解すべきである。

なぜなら,労働能力の一部喪失による損害は,交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているのであるから,交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではなく,交通事故の後に被害者が死亡したことは,前記の特段の事情のない限り,就労可能期間の認定に当たって考慮すべきものとはいえないからである。

また,交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより,賠償義務を負担するものがその義務の全部又は一部を免れ,他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害のてん補を受けることができなくなるという のでは,衡平の理念に反することになる。

【コメント】  (クリックすると回答)


逸失利益は,事故による受傷によって労働能力を全部又は一部喪失したとしても,その後就労つまり労働が(一般的には67歳まで)可能であったことを前提としています。

この最高裁判決の原審である東京高裁は,被害者が死亡して将来にわたって就労することができないことが明らかになった以上は,逸失利益は認めることはできないと判断しました。
東京高裁は,現実には死亡している以上は,将来の収入の喪失である逸失利益を考えることはできないと正面から判断したのです。

これに対し,本件最高裁判決は,
①逸失利益算定の基準時を「交通事故時」として,
②平均的な稼働可能期間は稼働できると原則的には推定できるとしました。

つまり,フィクションかもしれないが,あくまでも交通事故時の状態で判断するということを明言したのです。

そして②の推定が破られるためには,死亡の原因となる具体的事由が,あくまでも交通事故時に存在しなければならないとしました。
本件被害者の貝採り中の水死は当然これにあたらないものです。

ところが,例えば交通事故時にガンに罹患していて,後遺障害は残ったが,ガンによって死亡したという場合には,②の平均的な稼働期間は稼働できるという推定は破られることになると考えられます。

最高裁は平成8年5月31日判決(貝取判決から約1ヶ月後)の別事故で死亡した高校三年生の同じく12級後遺障害逸失利益について死亡によって切断しないことを確認し,その上で,それは,一切の死亡事由に及ぶことを明らかにしています。

「死亡が病気,事故,自殺,天災等のいかなる事由に基づくものか,死亡につき不法行為等に基づく責任を負担すべき第三者が存在するかどうか,交通事故と死亡との間に相当因果関係ないし条件関係が存在するかどうかといった事情によって異なるものではない。」

これによって,逸失利益は被害者の死亡によって影響されないという切断説が広く適用されることが明らかにされました。



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