被害者が死亡すれば将来の介護費用は認められないとした介護費用に関するいわゆる切断説に立つ判決です。 最高裁平成11年12月20日判決
1級3号の四肢痙性麻痺で係争中に胃ガンで死亡した場合に将来の介護費用は認められないとしました。
最高裁平成11年12月20日判決
自動車保険ジャーナル第1327号
被害者(当時62歳)は,平成3年9月18日午後7時頃,兵庫県揖保郡内の点滅信号・押しボタン式横断歩道で自転車を押して右から左へ横断中,水滴で視界不良も20㌔㍍速度超過の乗用車に衝突され,脳挫傷,外傷性くも膜下出血等で1級3号の四肢痙性麻痺で個室入院し,訴えを提起しました。
1審判決が出た後に,被害者は控訴をしたところ,控訴審の途中で,胃ガンにより死亡しました。
そこで,被害者の死亡後の将来の介護料(費用)が認められるか争いとなりました。
最高裁は,認められないという判決を出しました。いわゆる切断説に立つことを介護費用については明らかにしたものです。
そして,死亡以降の介護は不要となるのであるから,もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく,その費用をなお加害者に負担させることは,被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり,かえって衡平の理念に反することになるというのが,主な理由です。
(1)介護費用の賠償は,被害者において現実に支出すべき費用を補てんするものであり,判決において将来の介護費用の支払を命ずるのは,引き続き被害者の介護を必要とする蓋然性が認められるからにほかならない。
ところが,被害者が死亡すれば,その時点以降の介護は不要となるのであるから,もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく,その費用をなお加害者に負担させることは,被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり,かえって衡平の理念に反することになる。
(2)交通事故による損害賠償請求訴訟において一時金賠償方式を採る場合には,損害は交通事故の時に一定の内容のものとして発生したと観念され,交通事故後に生じた事由によって損害の内容に消長を来さないものとされるのであるが,右のように衡平性の裏付けが欠ける場合にまで,このような法的な擬制を及ぼすことは相当ではない。
(3)被害者死亡後の介譲費用が損害に当たらないとすると,被害者が事実審の口頭弁論終結前に死亡した場合とその後に死亡した場合とで賠償すべき損害額が異なることがあり得るが,このことは被害者死亡後の介護費用を損害として認める理由になるものではない。
最高裁判決の要旨は,以下の通りです。
(1)介護費用は,現実に支出すべき費用を補てんするもので介護される人が死亡すれば介護は不要となるので加害者に負担させることは不公平である。
(2)損害は交通事故の時に一定の内容のものとして発生したとするのは法的擬制(フィクション)だが,公平性の裏付けが欠けるような場合までは及ぼさない。
(3)将来の介護費用を被害者死亡の場合に否定すると,死亡の前後で損害額が異なってくるが,それは,肯定する理由とはならない。
このことから,介護費用については,介護を必要とする被害者が死亡した場合には,最高裁は,切断してしまって請求できないこと,つまり切断説に立つことを明らかにしました。