被害者に器質的な脳損傷を原因とする高次脳機能障害が残存しているとは認められないが,12級相当の非器質性の精神障害を認定した判決です。

[12級,びまん性軸索損傷,後遺障害,高次脳機能障害]

 

被害者に器質的な脳損傷を原因とする高次脳機能障害は認められないが,12級相当の非器質性の精神障害を認定した判決
大阪地裁 平成19年10月31日判決
事件番号 平成18年(ワ)第9452号 損害賠償請求事件
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1741号(平成20年7月10日掲載)


【事案の概要】
51歳男子建築請負業の被害者は,平成14年5月25日,普通貨物車を運転中,加害者運転の対向普通貨物車が中央線を越えてきて衝突,頭部外傷(脳震盪型)等で7日入院を含む509日受診しました。

事故としても,被害者車の前部を大破させ,衝突の反動で被害者車を衝突地点から約6.2㍍後方に設置されていた電柱まで押し戻し,その後部を電柱と衝突させて大破されたものでした。
そのため,被害者の頭部は,少なくとも,加害自動車との衝突及び電柱との衝突の2度にわたり,前後に揺さぶられました。
また,被害者車のフロントガラスに頭髪と血液のついた皮膚が付着しており,事故後に撮影された頭部CTで,右前頭部の頭蓋外に小さな挫傷が認められ

被害者は,本件事故により,右前頭部をフロントガラスに打ち付けたものと裁判所は認めました。


裁判所が認定した被害者の症状(性格変化)は,次の通りです。高次脳機能障害とされる症状には合致するとしています。
(イ)易怒性
怒りっぽくなり,不必要な注意をしつこく何度も言う。家族に八つ当たりすること
が多い。仕事先でもけんかをする。
(ロ)意欲及び発動性の低下
意欲が低下し,仕事をとろうという気持ちがなくなった。雨が降ると勝手に休んでしまい,相手ともめることがある。仕事に行かなくてはならないときも,何も準備ができていなくて,注意してようやく準備を始める。むしろ,仕事がない方が嬉しいと思っている節がある。

そこで,事故としては大きな事故と言え,症状も高次脳機能障害の可能性もありながら,事故直後の意識障害は軽いものであったため,被害者の高次脳機能障害が問題となりました。
なお,脳に関して自賠責後遺障害認定では非該当でした。


【判決の趣旨】
 結局,被害者に高次脳機能障害が残存していたかどうかの判断は,医学検査の結果に加え,事故態様,事故前と事故後の状況の比較等を総合的に考慮して判断するべきである
医学検査としては,画像診断装置による検査では,X線,CT,MRI,SPECTが行われたが,うちSPECTを除いては,被害者の脳には異常所見が見られなかった。SPECTについても,決定的な所見と考えることはできない。また,
知能検査として,正常の範囲内であった。以上の検査結果によれば,被害者に明らかに高次脳機能障害が残存しているとは評価できない。

本件事故により意識を喪失したものの,救急車で搬送中に意識を回復し,B病院に搬送後の見当識障害も,事故状況は思い出せないが,名前,場所については答えられるという程度であり,搬送後約6時間後には意識清明になったことから,それほど重いものとは言えない。
被害者に高次脳機能障害が残存していることと同被害者の本件事故後の状況とは矛盾するものではないが,本件事故前の状況が明らかにされていないことをも考え合わせれば,本件事故後の状況のみをもって,同被害者における脳の器質的損傷の存否を判断することはできないといわざるを得ない。

しかし,高次脳機能障害は残存していないが,本件事故により,後遺障害等級12級相当の非器質性の精神障害が残存していると認められる。

【コメント】

知能検査を踏まえた医学的検査結果では他覚所見が得られていないにもかかわらず,12級相当を自賠責とは異なり認定したのは,残存した症状を重視して結果の妥当性を考えた判決だと思われます。
意識障害については,全く正常な範囲と言えるかは疑問であり,画像所見がなければ非器質的脳損傷とする典型的な例と言えます。

 

交通事故における賠償や過失判例をご覧いただき、さらなる疑問にも弁護士として明確にお応えいたします。お気軽にご相談ください。

0120-56-0075 受付時間:月~金(土日祝日も対応)午前9時30分~午後10時

フォームからのご相談予約はこちら

ページの先頭へ戻る