年少女児の死亡逸失利益を男女平等とすることに関する判決です。
5歳の女児死亡逸失利益について,男女全労働者全年齢平均を基礎にして,生活費控除率45%とした判決です。
東京地裁 平成14年7月30日判決(確定)
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1468号(平成14年11月21日掲載)
【事案の概要】
当時5歳女子の被害者,
平成10年8月8日午前11時ころ,岩手県一関市内の市道左側に立っていたかまたは歩行中に,加害者運転の大型ダンプカーに衝突されて,轢過されて死亡しました。
【判決の趣旨】
未就労年少者の将来の逸失利益に男女の性の違いのみにより,現在の労働市場における男女間の賃金格差と同様の差異を設けることは,
未就労年少者の多様な発展可能性を性により差別するという側面を有しており,個人の尊厳ないし男女平等の理念に照らし適当ではない。
また,最近では,雇用機会均等法等により広い職業領域で女性労働者の進出の確保が図られ,これを支援する形で労働基準法が女性の勤務時間などの勤務規制を緩和し,
さらに男女共同参画社会基本法が制定されるなど,女性をめぐる法制度,社会環境が大きく変化しつつある。
その結果,今日においては,男女間の賃金格差の原因となっている従来の就労の形態にも変化が生じ,女性がこれまでの女性固有の職業領域だけではなく男性の占めていた職業領域にも進出しつつある。
これらの事情等に鑑みると,未就労の年少女子が死亡した場合における逸失利益の算定の基礎としては,賃金センサスによる女子労働者の平均賃金ではなく,
女性が将来において選択し得る職業領域の多様さを反映するものとして,男女の労働者全体の就労を基礎とする全労働者の平均賃金を採用することが,より合理性を有するものと考えられる。
なお,生活費控除率については,未就労の年少男子の場合との均衡,女性の消費支出の動向等にかんがみると,45%とするのが相当である。
【コメント】
逸失利益の基礎収入について,男女平等及び女性の社会進出の現状を踏まえて,原告である被害者両親の主張を認めた判決です。極めて格調が高い画期的な判決です。
死亡における生活費控除率について「未就労の年少男子の場合との均衡」から「45%とする」というのは,
生活費控除率が独身男性50%,女性一般30%との中間である40%
とすると,年少女児の方が,かえって男児より逸失利益の金額が多くなる逆転が生じるからです。
なお,さらに次の論点として年少者とは何歳まで言うかと言うことが問題となっていることを付け加えておきます。