高次脳機能障害5級3号で介護費用日額3000円を認めた判決です。
高次脳機能障害5級3号で介護費用日額3000円を認めた判決
横浜地裁平成15年7月31日判決
自動車保険ジャーナル・第1520号
【事案の概要】
被害者(事故当時29歳男子会社現場監督)
平成9年12月10日,神奈川県海老名市内の片側1車線道路左端に乗用車を停車させ,ドアを開けて車外に出て,同車の右側に立っていたところ,後方から走行してきた加害車両が被害者に衝突しました。びまん性軸索損傷を受傷
被害者は,日常生活において,食事・更衣・入浴・トイレ等の日常生活の動作自体は一応一人でできるものの,
ご飯を皿に入れる等見当はずれなことをしたり,
状況に応じた衣類の選択ができなかったり,
体を拭かずに服を着てしまったり,
トイレに行くのが間に合わず大小便を失禁してしまう。
電車に乗るための切符を買うことができない。
他人に対して言葉を発することはできるが,電話での応対や来訪者との応対・初対面の人とのコミニュケーションには制限がある。
基本的には無気力で1日中ボーっとしていることが多いが,感情の起伏が激しく,怒りっぽく,話したい時に聞いてもらえないと暴言を吐いたり,突っかかってきたりする。
被害者は,妻が就労していることからも一部職業付添人による介護が必要であると介護費用を被害者は裁判所に対して求めました。
【判決の趣旨】
裁判所は,高次脳機能障害は,被害者が求めた3級ではなく5級2号として右複視の12級2号との併合4級と認定。
その上で,随時介護が必要であると認められるが,被害者の後遺障害の症状・程度に照らすと,その介護費用としては近親者介護として日額3000円が相当であるとしました。
その一部を職業介護によるべきであるとの主張に対しては,介護の内容としては基本的に看視及び声かけであるという点,被害者の後遺障害の程度等に照らし,その一部を職業的介護人によらなければならない事情は認められないと判断しました。
【コメント】
この判決は,高次脳機能障害5級であっても,随時介護の範囲で将来の介護費用が認められることを示したものです。
どのような場合に,認められるかというと
(ア)日常生活に見当外れのことがあり,常時ではないが,随時看視の必要性があること
(イ)電話での応対や来訪者との応対・初対面の人とのコミニュケーションには制限があること
(ウ)感情の起伏が激しく,怒りっぽく,話したい時に聞いてもらえないと暴言を吐いたり,突っかかってきたりとの,マイルドな易怒性がみられること
が挙げられます。そして,随時介護の範囲ということで,日額3000円と認定したのです。
この事案は,被害者が妻と二人暮らしであり,妻が家計の補助としてパートをしていました。
随時介護とはいえ,被害者の妻はいつ発生するか分からない介護の必要に備えてパートを続けることは実際には困難であると言えます。
その点からすれば,被害者が主張した職業介護を一部認めるか,あるいは近親者付添人の基準としても日額をもう少し高いものにすべきであったと思います。