11級脊柱変形障害について逸失利益を認めた判決です。
救急救命士の資格を有する症状固定時32歳男子消防員が,11級脊柱変形を残す事案で,労働能力喪失率20%として逸失利益を認めたものです。
名古屋地裁 平成19年6月22日判決
<出典> 交民集40巻3号782頁
救急救命士の資格を有する症状固定時32歳男子消防員が,脊柱変形の後遺障害(11級)により救助活動が困難となり配置換えになったため,それまで救急救命士の資格で支給されていた手当分が減給したことから,労働能力喪失率20%として,逸失利益を求めたものです。
救急救命士が救急出動をして救助活動をする際には腰背部への相当の負担が生じるが,被害者は,疼痛及び運動時痛のために,救急出動の際に救急救命士として救助活動をすることが困難になっている。
そのため,本件事故後の復職後,被害者自身は救急救命士として救助活動を行う仕事に就くことを希望しているものの,被害者の上司の判断により,被害者は,救急出動の係から他の係に配置換えをされており,消防車を運転しての出動等はあるものの,救急救命士としての救助活動は行わない状況となっている。
そこで,被害者においては,上記後遺障害によって,実際に就労が制限されている状況にあるものというべきである。
さらに,被害者は,症状固定後の4か月間に賃金が減少となっているが,この減少分は,被害者が救急救命士として救急出動をしなくなったために生じたものであることが認められるから,被害者においては,実際にも減収が生じている。
そうすると,被害者においては,後遺障害によって逸失利益が発生することを肯定しうるというべきである。
そして,その逸失利益の算定にあたっては,上記後遺障害の内容,程度に加え,症状固定時に未だ32歳である被害者においては,上記後遺障害の影響によって,将来の配置換えの際あるいは転職の際における種々の不利益が生じることも予想され,また,被害者が上記後遺障害を持ちつつ就労する上では今後とも相当の努力や忍耐を要するものと解されることを総合考慮すると,20%の割合で労働能力を喪失したものとして,逸失利益を算定するのが相当である。
脊柱変形も変形障害として労働能力喪失となるのか,議論があるもので,否定して逸失利益を認めない判決も多々あるところです。
しかし,この判決は,被害者が救命救急士の資格を有する消防員であったことから,具体的に脊柱変形がその仕事に与える影響を検討して,その上で,被害者が現実にも職種転換されて,その結果として減収が生じていることを理由に労働能力喪失を肯定したものです。
裁判所は,変形障害についても具体的な就労に対する影響を主張立証していけば労働能力喪失を肯定することを示したものです。
なお,慰謝料も11級訴訟基準420万円に対して450万円と,若干ですが,上乗せを認めています。