外傷性白内障による後遺障害13級1号として労働能力喪失が認められた判決です。
被害者(当時,49歳女性,主婦)が自転車運転中に,乗用車に衝突され転倒し,肩・膝挫傷等から視力障害を発症したとする事案です。
判決は,視力シミュレーション検査結果により外傷性白内障を発症したとして,後遺障害13級1号の該当性を認めて,5年間12%,以降11年間9%の労働能力喪失による逸失利益を認定しました。
名古屋地裁 平成19年4月25日判決(確定)
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1714号(平成19年12月13日掲載)
被害者(当時,49歳女子主婦)は,平成12年11月21日青信号交差点を自転車で横断中,乗用車に衝突されて転倒して,右肩・右膝等挫傷の後に,視力障害等を発症しました。
被害者にいかなる視力障害があるのか,またそれを外傷性白内障として交通事故との因果関係が認められるのかが争点となりました。
1 外傷性白内障についての医学的知見
穿孔性眼外傷で直接水晶体に損傷があった場合,水晶体嚢の働きにより一定のバランスを保たれていた水晶体質中の電解質が,創部より流入する房水のためにそのバランスを失い,水晶体蛋白が凝固し白濁し,短期間のうちに成熟白内障になる。
損傷部が大きいときには凝固した水晶体質が前房に流出し,水晶体過敏性ぶどう膜炎を起こすことがある。
非穿孔性眼外傷の場合でも,眼球震盪により水晶体嚢の機能がなんらかの障害を受け,水晶体質の電解質のバランスを崩して,結果的には白内障を起こしてくる場合もある。
2 そこで検討するに,上記のような経過や外傷性白内障に関する医学的知見に加え,視力シミュレーションからすれば被害者の症状は白内障(ただし,混濁というより不整乱視(水晶体性)のような状態)であると考えられ,また,症状の経過からすると外傷性白内障であると考えられると判断していることを総合すると,被害者は,右眼につき,本件事故により外傷性白内障を発症し,そのため,右眼につき,平成15年2月18日時点で(0.5)の視力低下をきたしたものと認定するのが相当である。
他方,上記視力シミュレーションによれば視野異常は示されていないものであり,視野異常の後遺障害は認められない。
3 たとえ視力が(1.2)であったとしても,このことと,見にくいと訴えたり不整乱視が始まることとは必ずしも矛盾しないと解されるから,被告の主張は採用できない。
外傷性白内障について論じた貴重な判決です。
水晶体嚢が破損すると,水晶体繊維が変性,膨化して混濁して白内障となります。
水晶体嚢の破損については,判決にもあるとおり「穿孔性眼外傷で直接水晶体に損傷があった場合」以外にも「非穿孔性眼外傷の場合でも,眼球震盪により水晶体嚢の機能がなんらかの障害を受ける」とされています。
眼球打撲など眼球壁への鈍傷による眼球震盪が考えられます。
視力低下として13級1号(一眼の視力が0.6以下となったもの)を認定して逸失利益も肯定されました。
このような外傷性による視力低下は因果関係が自賠責認定あるいは裁判所において否定される事が多くあります。
事故から2ヶ月を経過してから視力低下を訴えた場合には,否定される傾向にあると言われています(「後遺障害等級認定と裁判実務」高野真人弁護士編著 新日本法規p335)。
本判決は,外傷性白内障の診断は事故から4年近く経過しておりますが,症状の訴えは事故から3日目頃からあったと認定されています。その点から症状出現の時期が認定されていることが功を奏していると思われます。