レーザー治療等によって完治する可能性がある顔面醜状痕について治療を選択しない自由があることから後遺障害として認めた判決です。
レーザー治療等により治癒する可能性も否定できないが,効果ははっきりせず,さらに症状悪化させる場合もあり得ることから,レーザー治療を受けないからといって,後遺障害の存在を否定するのは相当ではないと,自賠責認定を相当としました。
大阪地裁 平成8年12月12日判決
被害者の醜状痕は,左眉毛上部に2・5㎝×1㎝大の脱色陥凹瘢痕,同部に2㎝×1㎝大の刺青様陥凹瘢痕,左眼尻上部に直径0・2㎝の刺青様瘢痕,左頬部に直径1・5㎝の刺青様瘢痕の醜状障害を残す事案でした。
<出典> 交民集29巻6号1787頁
被害者(当時,7歳女児)が顔面醜状痕を残しましたが,レーザー治療等により治癒する可能性も否定できないが,医師から新しい治療法で効果ははっきりせず,さらに症状悪化させる場合もあり得る旨説明を受けていることから,右レーザー治療を受けないからといって,後遺障害の存在を否定するのは相当ではないとしました。
被害者の顔面に存する醜状痕は,レーザー治療等により,治癒する可能性も否定できないが,被害者の母親は,被害者の担当医から,レーザー治療は,最近始まった治療法であって,その効果については,まだはっきりとしたことは言えず,今よりさらに症状を悪化させる場合もあり得る旨説明を受けているのであるから,被害者の父母が被害者にレーザー治療を受けさせることに躊踏するのは無理からぬところがあり,被害者の父母が被害者にレーザー治療を受けさせないのには相当な理由があると認められる。
なお,形成外科の分野においてレーザー治療は,一般的な治療法になりつつあり,医師によっては,ほとんどの症例で有効であると述べる者もいることが認められるし,前記のとおり,最近になってレーザー治療にも健康保険の適用も受けるようにはなった事情も認められるけれども,レーザー治療が,まだ新しい治療法であることには違いないのであるから,右各事情は,被害者の父母が被害者にレーザー治療を受けさせないのには相当の理由があるとする前記認定を左右するものではない。
そうすると,このような場合,被害者がレーザー治療を受けないからといって,被害者の後遺障害の存在を否定するのは相当ではない。
醜状痕に対するレーザー治療の評価が定まっていないと言うことが重要な点となっています。しかし,醜状痕に対するレーザー治療の評価がその後に定着して安全性も確立してきた場合には同じ判断となるかは難しいところです。だが,危険性が残されて,かえって症状を悪化させる場合もあり得る限りは,その治療方法を選択するかは被害者側に任されており,その治療をしないことが不利に評価されることはないと言うべきです。