死亡による内縁の扶養利益侵害の損害賠償に関する判決です。

[内縁,慰謝料,扶養,死亡,逸失利益]

 

被害者Bが被害者Aの内縁の妻に当たるかにつき,住民票上の住所が異なり,婚姻予定が明確でないが,Aとの同居生活が5年に渡っており,その「期間の長さ」から,内縁の妻と認定しました。

死亡した内縁の夫Aは年収400万円であり,被害者B(内縁の妻)も有職(Aが生活費の3分の2を負担)であったことから,「扶養料としては月8万円」とし,A67歳までの扶養利益侵害分を1,537万円(Aの逸失利益の約3分の1)と認定しました。


名古屋地裁 平成21年7月29日判決(確定)
平成18年(ワ)第5246号(交通)損害賠償等請求事件(甲事件)
平成19年(ワ)第1047号(交通)損害賠償等請求事件(乙事件)
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1811号(平成21年12月17日掲載)

【事案の概要】
の被害者A(当時,37歳男子会社員)は,平成18年5月6日午前2時35分ころ,愛知県内の交差点で軽四輪乗用車を運転直進中に,飲酒した加害者乗用車に衝突されて死亡しました。内縁の妻である被害者Bは扶養逸失利益等を求めて訴えを提起しました(甲事件)。
他方,Aの実子である長男,長女も訴えを提起しました(乙事件)。
乙事件の当事者は,Aの相続人ですから問題はありませんが,
Bが内縁の妻であったことから,どのような請求ができるのかが問題となりました。また,前提としてAとBが内縁関係にあるかどうかが問題となりました。

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【判決の趣旨】
争点(1)(被害者丙川と一郎は内縁と認められるか。)
A(昭和43年生)は,平成4年12月,離婚した後,子供の親権者となり,Aの両親と同居して生活していた。父親は甲塗装を営んでおり,Aもそこで働いていた。Aは母と折り合いが悪かった。Aの両親はAの子両名と養子縁組している。
被害者B(昭和53年生)は独身である。平成14年からC保育園に勤務している。
被害者Bは,平成12年ころAと知り合った。
平成13年1月ころから被害者Bの住所で,Aが入り込む形で同居生活が始まった。各自の車を保有していたが,それぞれが他方の保有する車を運転して使用することもあった。
Aは,被害者Bのアパートから仕事に行っていた。Aは,実家へも週1回程度行っていた。被害者Bのアパートと実家は車で5分程度の距離である。
Aの郵便物のうち,重要なものは被害者B方に届くようにしていた。Aは,印鑑登録手帳,資格証は被害者B方に置いていた。また,給与明細書も置いていた。
Aの住民票上の住所は実家の住所のままにしていた。
Aは,名古屋地方裁判所で,平成14年12月27日破産宣告,同時廃止の決定
を受け,さらに平成15年3月28日免責決定を受けている。その後は,Aの収入は被害者Bが管理するようになった。
被害者Bは,平成18年3月末日をもって勤めていたC保育園を辞めた。
平成18年5月6日,本件事故が起こった。
被害者Bは,両親と共にAの告別式に出席した。
ところで,被害者Bは,平成18年6月に婚姻の予定であった旨供述,陳述し,これに沿う証拠(陳述書あるいは証明書)を提出しているが,前記書証の作成者は被害者B及びA双方と親しい人とは認められず,また,Aの父はそのような話を聞いておらず,前記証拠から直ちに平成18年6月に婚姻予定であったと認めることはできない。
以上のとおり,被害者BとAとの同居生活は5年に渡っており,生計も同じにしていた者であって,内縁の妻と推認される。両者の住民票上の住所が異なっており,また,婚姻予定の関係が必ずしも明確ではないことは,同居期間の長さに照らすと,前記結論を左右するものではない。

争点(2)(被害者Bの損害額)
ア 扶養利益の侵害(請求4,304万2,720円) 1,537万2,400円
 前記認定のとおり,平成17年当時,Aは年400万円を下らない収入があり,また,被害者Bは,C保育園に勤務し,退職した後,現在復職している。被害者Bの収入は月14万円くらいで(平成18年1月から3月で50万円余り),Aの半分以下である。そして,生活費の3分の2はAが出していた。Aの子の被害者両名はAの両親の養子になっているが,Aの両親はいずれも高齢である。
被害者BはAの逸失利益の半分を扶養利益の侵害として主張し,生活保持義務があるところ,生前の収入,生計の維持に充てる部分,被扶養者につき扶養利益として認められる比率割合,扶養を要する状態が存続する期間等を考慮して決めるべきであり,半額をもって直ちに扶養利益の侵害額とすることはできない。
そして,生前の双方の収入の合計は月47万円余りであったこと,その差は約19万円であること,被害者Bは,今後現在と同程度の収入を得る可能性があること,生活費の3分の2はAが出していたこと,その他本件で現れた事情を考慮すると,扶養料としては月8万円程度で,1年で100万円が相当であり,30年間で1537万2,400円となる。(注:100万円×30年間に対応するライプニッツ係数)

イ 慰謝料(請求1,800万円) 900万円
前記認定のAと被害者Bとの関係に照らすと,固有の慰謝料は900万円と認める。
ウ 以上合計  2,437万2,400円

【コメント】
内縁関係にある場合に,相続人ではないのでどのような損害賠償が,どのような理論で請求できるのか,問題となるところです。そして,その請求ができるためには,どの程度の「内縁」関係が必要かも問題です。それは内縁は法律で保護されている婚姻関係(正式な夫婦)ではなく,事実関係だからです。
(1)内縁関係が認められるか。
判決は,生活を同一にしていたこと,特に経済的一体関係にあったこと=財布共通を重視しています。もちろん,その期間が5年という比較的長期であったことを重視しています。それは,亡くなったAとBとが将来的に結婚する意思があったかどうかをいささか疑問に思っていたために,それらの点についてはきめ細かく認定をしています。
(2)Bの損害額
Bは内妻であり相続人でありません。従って,Aの逸失利益の相続分をそのまま相続することはできません。判決の理論構成はBはAに扶養されていたことから扶養される権利を侵害されたことによる損害賠償というものです。そして,その金額は,Aには実父の養子として扶養してもらっていた実子二人がいること,Bが今後も収入を得る可能性があることから,年額100万円程度としました。相続人とのバランスからの妥当性を図ったものと思われます。また,固有慰謝料としては900万円というものです。内縁関係の場合の1つの基準あるいは相場といえるものです。

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