兄弟姉妹の固有の死亡慰謝料請求権を否定した判決です。
事故当時26歳の独身男性の死亡事故で実姉の固有慰謝料が認められるか問題となった判決です。
被害者の実姉の固有慰謝料請求について,15年間同居し,両親別居後は,母子3人力を合わせて生活してきたが,高校卒業から現在までは別居,経済的援助をしていたなどの特別な事情もないことから否認されたものです。
山形地裁 平成20年9月10日判決
<出典> 交民集41巻5号1235頁
【事案の概要】
実姉は,被害者とはもともと非常に仲のよい姉弟であり,被害者が誕生(昭和53年8月15日)してから約15年間にわたって同居していたほか,昭和63年ころ(実姉が中学校1年生時,被害者が小学校4年生時)に父が別居するようになってからは,被害者と実姉と母の3名で力を合わせ,一生懸命に生活をしてきました。
このような生活実態からすれば,実姉と被害者の関係は,通常の家庭における姉弟に比べて,非常に密接な特別な生活関係にあったということができます。
そして,実姉は,本件事故直後(平成17年4月9日発生),直ちに被害者が搬送されていた病院に向かい,その途中で被害者が死亡したことを聞きながらも病院に駆けつけ,被害者の死亡の現実に直面し,その後,1か月以上も実家に滞在して,深い悲しみに暮れていたのであるから,被害者の死亡によって特別な精神的打撃を受けたことは明らかであったものです。
【判決の趣旨】
実姉に本件事故による固有の慰謝料が認められるか)について
実姉は,被害者の実姉であり,民法711条所定の近親者(被害者の父母,配偶者及び子)には該当しないから,加害者に対し,同条を直接適用して,本件事故により受けた精神的苦痛に対する固有の慰謝料を請求することはできないが,文言上,同条に該当しない者であっても,被害者との間に同条所定の者と実質的に同視し得べき身分関係が存し,被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は,同条の類推適用により,加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求し得るものと解される(最高裁昭和49年12月17日第3小法廷判決・民集28巻10号2040ページ)。
これを本件についてみるに,証拠によれば,実姉は,被害者が誕生(昭和53年8月15日)してから約15年間にわたって被害者と同居し,この間の昭和63年ころ(実姉が中学校1年生時,被害者が小学校4年生時)に実姉と被害者の父が別居するようになって以降は,母子3人(母,実姉,被害者)で力を合わせて生活をしてきたことが認められるが,実姉が高校を卒業した平成6年ころからは,被害者と生活をしてきたわけでもなく,また,被害者に対して経済的に援助をしてきたなどの特別な事情も窺われないのであるから,同条所定の者と実質的に同視し得べき身分関係が存在すると認めることは困難であるといわざるを得ない。
そうすると,確かに,実姉は,本件事故により病院に搬送された被害者の死体を目の当たりにするなどして,大きな精神的衝撃を受けたであろうことは想像するに難くないものの,その固有の慰謝料の発生を認めるのは困難であり,実姉の請求は,その余の点について判断するまでもなく,認められないというほかない。
【コメント】
兄
弟姉妹については,民法711条所定の近親者(被害者の父母,配偶者及び子)には該当しないことから,当然には被害者死亡の固有慰謝料請求権はありません。
但し, 被害者との間に同条所定の者と実質的に同視し得べき身分関係が存し,被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は,同条の類推適用により,加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求し得るものと解される(最高裁昭和49年12月17日第3小法廷判決・民集28巻10号2040ページ)。例えば,両親を早くになくして弟を母親代わりに育てた姉というならばまさに「実質的に同視し得べき身分関係が存し」と言えることになります。
本件は,両親が幼い頃に別居したために,母子家庭として苦労を共にした姉弟の事例でした。人情的には,認めてあげたいと思われます。相続人として別居している(法律的には離婚が成立していないため)父親が損害賠償を相続することとのバランスを欠くようにも思われます。
しかし,実姉が高校を卒業してから被害者が本件事故で死亡するまでの約11年間同居しておらず,経済的援助もしていなかったことを理由に否定されました。