骨盤骨折に由来する神経損傷(勃起不全を含む)についての判決です。

[インポテンツ,勃起不全,生殖機能,骨折,骨盤,8級]

当時24歳の被害者(男性)が自動車と交差点内で衝突しそうになり,それを回避するために転倒して,その結果,骨盤骨折等を受傷した事故です。

その結果,骨盤骨折に由来して神経損傷となり,併合8級に相当する知覚麻痺・勃起不全・排尿障害となってしまいました。

被害者は,そのために当時交際していた女性と別れざるを得ないことになりました。

それらから,石材業で稼働しているが1日4時間で週5日程度に制限していることから,67歳まで45%喪失で逸失利益を認定して,後遺障害慰謝料650万円としました。
 
名古屋地裁 平成10年1月21日判決
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1267号(平成10年10月22日掲載)

【事案の概要】   (クリックすると回答)


オートバイを運転していた当時24歳の被害者(男性)が自動車と交差点内で衝突しそうになり,それを回避するために転倒して,その結果,骨盤骨折等を受傷した事故です。

骨盤骨折は,骨折に付随して血管や神経を損傷させることがあります。

この事案では,骨盤骨折に由来して神経損傷となり,その結果,知覚麻痺・勃起不全・排尿障害となってしまいました。

被害者は,そのために当時交際していた女性と別れざるを得ないことになりました。それらの点が,後遺障害としてどのような評価を受けるかが争点となりました。

【判決の趣旨】  (クリックすると回答)


原告には,骨盤骨折による腰仙骨神経叢の損傷に由来する
①右臀部,右大腿部,陰嚢,陰茎の知覚麻痺,
②右股関節部,下腿部の脱力感,
③右下肢の筋萎縮,
④排尿,排便障害,
⑤月1,2回の失禁,
⑥勃起不全
の後遺障害が存在し,そのために,作業場内での動作に制限を受け,重量物の運搬が困難になり,また,長時間の労働は不可能で,1日4時間程度で週5日程度の労働しかできない

原告の右障害が将来改善される可能性は極めて乏しいことから,

原告の右障害のうち,①ないし③は自賠法施行令2条別表後遺障害別等級表9級10号に,④及び⑤は同表12級12号に,⑥は同表9級16号にそれぞれ該当することが認められ,これによれば,原告は,全体として,労働能力の45㌫を喪失したもの(同表8級相当)というべきである。

後遺障害慰謝料については
原告は,前記後遺障害のために,仕事上の不都合を被っているのみならず,本件事故前に趣味としていたバスケットボール,ボディビル,自動二輪車の運転等を断念したほか,勃起不全のために,交際していた女性との別離を余儀なくされ,結婚生活を営むについても相当の困難を伴うことが予想されるために,将来について希望が持てない状況に陥っており,これらの事情のために著しい精神的苦痛を受けていることが認められ,これによれば,原告の後遺障害による慰謝料の額は,650万円と認めるのが相当である。

【コメント】  (クリックすると回答)


骨盤骨折だけでは,比較的症状が軽くて,骨癒合も良好であり後遺障害が残らない場合が多いとされています。

しかし,この事案のように骨折によって神経,しかも腰仙骨神経叢という神経の密集している箇所が損傷されると,様々な症状が出現して,後遺障害が残ることがあります。
この被害者男性は,「①右臀部,右大腿部,陰嚢,陰茎の知覚麻痺,②右股関節部,下腿部の脱力感,③右下肢の筋萎縮,④排尿,排便障害,⑤月1,2回の失禁,⑥勃起不全」の後遺障害が残ってしまいました。

陰嚢,陰茎の知覚麻痺,排尿,排便障害,勃起不全と男性器だけを取り上げても,大変な状態です(ちなみに勃起不全だけでも9級16号です。)。
生殖機能を含む男性としての機能が大きく損なわれたと言うことです。

そして,「交際していた女性との別離を余儀なくされ,結婚生活を営むについても相当の困難を伴うことが予想されるために,将来について希望が持てない状況に陥っており,」という判決からは,被害者の悲しみと苦しみが伝わります。

さて,本事案の判決では,後遺障害について逸失利益では併合8級としています。そして,慰謝料については,男性としての機能の被害状況を強調しておりますが,

訴訟基準8級の症状固定時の平成4年当時の後遺障害慰謝料額を増額しておりません。

これらの点は,知覚麻痺,脱力感という神経症状を含む上に,男性としての生殖機能に関する障害であることが関係していると思われます。
それは,男性としての生殖機能に関する障害は労働能力喪失には影響しないという考え方があるからです。
ところで,判決は,生殖機能障害について後遺障害の等級判断に関して評価しているのかどうかはあいまいなままです。

後遺障害慰謝料についての事情から考えると斟酌しているとも言えそうです。

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