外傷性タナ障害による膝疼痛について12級該当性を認めた判決です。

[ヒダ障害,半月板,画像所見,疼痛,,12級,14級]

外傷性の左膝にタナ障害(膝蓋の滑膜ヒダ(タナ)が肥厚,発赤する障害)を負ったとして自賠責認定の14級10号(当時)を変更して12級12号(当時)の後遺障害を残すものと,67歳まで労働能力喪失率14%で逸失利益を認めたものです。
大阪地裁 平成18年4月25日判決
事件番号 平成16年(ワ)第7070号 損害賠償請求事件
<出典> 交民集39巻2号578頁


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【事案の概要】
乗用車助手席同乗中の被害者が,路面凍結のため被告車がスリップ,自損事故を起こし,左膝にタナ障害(膝蓋の滑膜ヒダ(タナ)が肥厚,発赤する障害)を負ったとする事案です。
被害者は助手席のシートを倒し,横臥して仮眠中で,左膝をダッシュボードにぶつけ,その衝撃でダッシュボードが割れました。そして事故直後に被害者は歩ける状態ではなく,友人におぶってもらいトイレに行ったこと等がありました。

また,事故当時27歳の被害者でしたが,局部に頑固な神経症状を残す事案として,67歳まで労働能力喪失率14%で逸失利益を算定したものです。

なお,被害者の左膝タナは巨大であったと認められるが,健常人の約半数が有する一種の正常変異であり,そのタナ障害は事故によるタナの炎症,肥厚が原因であることから,被害者に素因減額するのは相当でないとしたというものです。

【判決のポイント】
外傷性の膝タナ障害を認めたという点でまずは注目すべきものです。
その認定の理由としては,
第1に,事故前にタナ障害がなかったことを前提にして
「原告の左膝には,何らかの防御態勢をとる隙もない状態で,ダッシュボードが割れるぐらいの相当程度の外力が加わったものと考えられる。」
「タナ障害は,外傷によって膝蓋内側滑膜襞(タナ)に断裂,出血,瘢痕化が生じた場合に発現するものであると認められることを考え合わせると,本件交通事故によって原告の左膝が受けた外力により,原告の左膝にタナ障害が発症した可能性が認められる。」
という受傷機転,つまり左膝が受けた外力の大きさを認定していることです。
第2に,画像所見としてMRIでは明確にタナ障害と判断できるだけの異常所見はないが,それにつながるMRI上の異常所見がある(例えば,「内側半月板の後方に長い断裂」,「軟骨損傷は否定できません」,「膝蓋大腿関節間に介在物」という所見)ことを理由としています。
さらに,「関節鏡検査を伴う手術において,靭帯や半月板に異常はなかったがタナの著明な肥厚,関節面とのインピンジ(接触,衝突),接触する軟骨面における発赤を認めたためタナを切除したことが認められる」として,「タナ障害は,明らかなタナ障害の所見があるにもかかわらず,MRIで明らかな所見を認めないことも多いものであり,タナ障害の診断におけるMRIの役割は補助的であり,最終的には関節鏡検査でその診断が行われるものである」として他覚的な所見があるとしております。要するに,目視である関節鏡検査による手術でタナ障害が観察されているということです。

これらの第1及び2の理由から「左膝に発症したタナ障害は,本件事故における左膝打撲の衝撃によって生じたものであり,本件事故と因果関係を有するものと認められ」て「客観的な異常所見(他覚所見)の認められる神経症状というべきもの」として等級変更がされました。
次に,神経症状ですが,労働能力喪失期間を短縮せずに就労可能な67歳まで認めています。その理由としては,「タナを切除してもタナが存在した部分に再び瘢痕組織が生じたり,切除部位の関節包に肥厚を生じ,同様の症状を再発することが多いとしていることからすれば,再手術を行っても症状が軽快すると認めることはできない。」として被害者のタナ障害が永続性のある神経症状としています。

【コメント】
自賠責では,タナ障害の存在及びタナ障害が外傷性,つまり事故と因果関係があるかどうかについて否定をして他覚的(画像)所見のないものとして14級止まりとしました。
その点が訴訟で争われたものです。
裁判所は,外傷性であるかどうかについて受傷機転つまり外力の大きさを検討し,また他覚的(画像)所見についてはタナ障害の特徴を理解した上で,MRI画像だけでは明確な判断はできず補助的材料にしか過ぎないとして,現実の治療,特に関節鏡検査による手術で観察されていることが大きな理由です。
このように14級が12級となるためには,受傷機転と他覚的(画像)所見が訴訟において立証されるという原則通りの判決といえます。

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