事故前に既に症状が出現している脊柱管狭窄による素因減額についての判決です。
脊柱管狭窄があるばかりか症状が出現しており,数回の労災事故を含む事故の重複でそれが増悪していた事実があります。そのため,一般的な素因減額率を上回る4割を減額したものです。
東京地裁 平成22年3月17日判決
<出典> 自保ジャーナル・第1828号
被害者(当時,43歳男子 運送会社勤務)は,中心性頸髄損傷等で7日入院を含む221日休業して12級12号後遺障害を残しました。
なお,過去多数回の事故,2週間前の労災事故での本件事故と同じ中心性頸髄損傷の診断で同様の症状を呈し,かつ発育性頸部脊柱管狭窄であり,本件事故当時には,既に既往症による症状が発現して疾患を抱えた状態にあり,これが本件事故による外力により増悪したものです。
原告は,発育性頸部脊柱管狭窄症であったことが認められる。
このような発育性脊柱管狭窄は,圧迫性の頸髄症の発症原因となるとされているところ,原告は前記のとおり,本件事故前に多数の交通事故により頸椎捻挫の症状を訴えて治療を受けていたこと,
本件事故の約2週間前に発生した別件労災事故により,中心性頸髄損傷の傷害を負い,6日間の入院治療を受け,退院時にも右上肢脱力の症状が残存していたこと,
別件労災事故の受傷後に受診した病院で撮影したレントゲン像やMRI画像では,脊柱管のなかの脊髄がいわばひしゃげた状態になっていたこと
に照らすと,本件事故当時には既に脊髄が圧迫されるなどして,脊柱管狭窄等に伴う右上肢の神経症状が出現していたと認められる。
原告は,従前から頸部脊柱管狭窄症の既往があり,頸椎等に衝撃を受けると障害が生じる身体的素因があったところ,過去の交通事故や別件労災事故による外力により,本件事故当時,既に前記既往症による症状が発現して,疾患を抱えた状態にあり,これが本件事故による外力により増悪したと考えるのが相当であり,本件事故後の原告の右上肢の神経症状には,原告に以前からあった脊柱管狭窄症や過去の交通事故及び別件労災事故による頸椎の傷害が影響していると認めるのが相当である。
そして,本件事故前に既に前記脊柱管狭窄症等に由来する症状が出現しており,とりわけ本件事故の2週間前に発生した別件労災事故では,中心性頸髄損傷の傷害を負い,6日間にわたる入院治療を受け,退院して間もなく本件事故に遭ったこと,
前記事故態様に照らすと本件事故による衝撃はさほど大きなものでなかったと考えられ,同乗していた原告の妻は後遺障害等級14級の後遺障害に止まっていること
等の事情に照らすと,損害の公平な負担の観点から,原告に生じた損害についてその4割を減額するのが相当である。
中心性脊髄損傷による後遺障害等級12級12号を自賠責認定どおり認めましたが,頚部脊柱管狭窄症の既往症があるばかりか,発症しており,数回の労災事故を含む事故の重複でそれが増悪していた事実があります。
そのため,一般的な素因減額率を上回る4割を減額したものです。