保険外交員の休業損害・逸失利益における基礎収入に関する判決です。
郵便局の保険外交員(男・37歳)について,休業期間中(13ヶ月)も支給された基本給与・賞与年額479万円余を除き,前年の外交員報酬年額442万円余のすべてを営業経費を控除せず基礎収入としました。
神戸地裁平成13年11月9日判決
自動車保険ジャーナル・第1433号(平成14年3月7日掲載)
〈原告の主張〉
原告は,本件事故当時,郵便局の保険外交員として勤務し,①基本給与・賞与として年額479万1,985円,②外交員報酬として年額442万0,991円の収入を得ていたところ,本件事故による14ヶ月の欠勤期間中,①についてはすべて支給されたが,②については支給されなかった。
したがって,休業損害の額は,515万7,822円(442万0,991円×14ヶ月/12ヶ月=515万7,822円)となる。
〈被告の主張〉
休業損害について,前年の外交員報酬を休業損害算定の基礎とすることは,安定性に欠け,妥当でない。
また,生命保険の外交員の場合の所得率56%を参考として,必要経費分を控除すべきである。
さらに,原告が主張するように症状固定日までの全期間にわたって全面的に労働能力を喪失していたとは考えられないことから,就労不能期間や喪失率を限定すべきである。
〈争点〉
前年の外交員報酬を基礎収入とすることの妥当性及び就労不能期間
被告は,休業損害の算定に当たって,前年の外交員報酬を基礎収入とするのは安定性に欠け妥当でない,必要経費分を控除すべきである,就労不能期間や喪失率を限定すべきである旨主張する。
しかしながら,休業損害算定の基礎とした平成8年分の外交員報酬442万0,991円が休業損害算定のための基礎収入として安定性に欠ける金額であることをうかがわせる証拠はない。
また,原告は,外交員報酬を得るために,営業先に持っていく粗品を自ら購入していることが認められるが,本件全証拠によるも,他に必要経費を支出していることはうかがわれず,休業損害の算定に当たって控除すべき格別の必要経費が存するとは認められない。
さらに,原告は,上記認定の約13ヶ月の欠勤期間中,134日間の入院と200日の実通院により上記受傷に対する治療を受けているものであるところ,原告のかかる欠勤が不必要なものであったことを認めるに足りる証拠はないから,現実の欠勤期間である約13ヶ月をもって,休業損害算定の基礎となる休業期間とするのが相当である。
本件は,休業損害のみならず,逸失利益の基礎収入としての問題です。
それも現在では収入の体系が異なると思いますが,①基本給与・賞与②外交員報酬がある郵便局の保険外交員という特殊な職種からくるものです。
休業損害については,①基本給与・賞与は,支給されているために②外交員報酬のみが問題となりました。
判決は,原告の主張の通りに,「安定性」を認め,また必要経費の控除は不要としました。
なお,14ヶ月を13ヶ月にしたのは,単なる月数の計算ミスを指摘したのだと思います。
しかし,後遺障害の逸失利益において,原告は,①基本給与・賞与及び②外交員報酬を基礎収入とするように主張しました。
その理由としては,「①の減収はないものの,上記後遺障害のため,十分な仕事ができないことにより,昇進・昇給上の不利益及びこれに伴う退職金や年金などの受給上の不利益を被るおそれがある」ということです。
しかし,判決は,「①については原告の努力の有無にかかわらず,減収はないと考えられることからすると,やはり,①を逸失利益算定の基礎収入とすることは相当でなく,原告主張の諸事情は,後遺障害慰謝料の増額事由として斟酌すべき事柄であると考える。」として,休業損害及び逸失利益共通の基礎収入として②外交員報酬とするとしたものです。