自営業者の休業損害の基礎収入として稼働能力があったとして賃金センサス男性大卒全年齢を適用した判決です。
【いわゆる赤い本平成25年版p64の判決】
うどん店及びダイビングショップの経営者(男・31歳,頚部痛等14級)につき,事故前年のうどん店の収入は青色申告の内容から538万円余と認められるが,ダイビングショップの収入額は税務申告がないから確定できないとしながら,事故後に再開したダイビングショップの経常利益283万円余からすれば,事故に遭わなければダイビングショップもある程度収入を得られたと認められるとして,賃セ男性大卒全年齢平均680万4900円を基礎に,事故後半年間100%,その後症状固定まで231日間50%を認めた(大阪高判平成20年11月28日)
なお,
(1審) 大阪地裁堺支部 平成20年2月5日判決
事件番号 平成17年(ワ)第549号
交通事故による損害賠償請求事件
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1767号
(平成21年1月22日掲載)
【事案の概要】
1 事故日時 平成13年3月12日午前3時30分ころ
2 事故状況
追突
(傷害内容) 外傷性頸椎症,腰部捻挫
3 治療状況
通院日数415日間(症状固定日の争いがあり,判決が認定した日数である。)
4 後遺障害
14級10号(当時,現9号)
5 争点に関連する事実
証拠(略)によれば,①控訴人は,本件事故当時,うどん店を経営するとともに,店舗2階でダイビングショップを経営していたこと,②控訴人の経営するうどん店の本件事故前年(平成12年)の収入額は,平成12年分所得税青色申告決算書によれば,青色申告特別控除前所得259万0,986円に固定経費(租税公課13万4,500円,損害保険料11万6,640円,減価償却費62万0,012円及び地代家賃192万円)を加算した538万2,138円であったことが認められる。
他方,証拠(略)によれば,控訴人は,平成12年9月か10月ころからダイビングショップの営業を開始したものの,平成12年度及び平成13年度のダイビングショップの収益については税務申告をしていなかったことが認められ,また,本件事故当時のダイビングショップからの収入額を客観的に把握することができる的確な証拠は提出されていない(控訴人は,本件事故前のダイビングショップの売上げを示すものとして損益計算書及び仕入先の領収証(証拠略)を提出するが,同計算書には器材の売上げと仕入原価の極めて概括的な記載しかなく,ダイビングショップ全体の売上げや経費等が不明であり,これらのみによって本件事故当時の控訴人のダイビングショップからの収入額を客観的に把握することはできない。)。したがって,ダイビングショップから控訴人が得ていた収入額を確定することはできず,もとより,控訴人が主張するような高額の収入があったことを認定することはできない。しかしながら,証拠(略)によれば,控訴人は,本件事故後,平成16年になってダイビングショップを本格的に再開し,その頃始めた宣伝活動の成果もあって,同年には283万9,000円の経常利益を計上したことが認められることからすると,控訴人は,本件事故に遭わずにダイビングショップの営業を継続していれば,症状固定に至るまでの期間中に,うどん店からの上記収入に加えてダイビングショップの営業からもある程度の収入を得ることができたことが推認される。
【判決の趣旨】
控訴人の稼働能力は,男子全労働者の平均(平成13年度賃金センサス男子学歴計全年齢平均賃金は565万9,100円である。)を上回っており,控訴人は大卒男子労働者と同等程度の稼働能力を有していたものと認められるから,控訴人の休業損害を算定するに当たっては,うどん店とダイビングショップを併せた総収入額について,平成13年度賃金センサス大卒男子全年齢平均賃金680万4,900円を基礎収入として採用するのが相当であると認められる。
控訴人は,ダイビングショップ経営に関する休業損害については,平成16~18年のダイビングショップからの収入を基礎収入として算定すべきであると主張する。
しかし,証拠(略)によれば,本件事故は,控訴人がダイビングショップを開業してから半年程度しか経過していない時期に発生したものであるところ,当時,控訴人は,平成16年に営業を再開した際に行ったような宣伝活動は行っておらず,また,未だ十分な実績も上げていなかったことが認められ,このような時期の収入と,十分な宣伝活動(証拠略)を行い,それなりに実績(証拠略)を上げた後の平成16~18年の収入とが同じであるということはできないから,控訴人の上記主張は採用する
ことができない。
(中略)
ダイビングショップの営業では,試験に合格して自ら得たダイビングインストラクターの資格に基づき,専ら控訴人自身が顧客にダイビングの指導をしながらダイビングの器材を販売するという形態であり,ダイビングを指導するには控訴人本人も重い器材を身に付ける必要があったこと,控訴人は,うどん店の営業再開後も,頻繁に痛み止めの神経ブロック注射を受け,丙川医師からは休業を勧められたが就労していたことが認められる。以上に加えて,前記認定の控訴人の症状及びその経過を総合考慮すると,本件事故との間で相当因果関係を肯定することができる控訴人の休業率は,うどん店については,本件事故後半年間(平成13年3月12日から同年9月11日まで184日間)は100%,その後,症状固定日(平成14年4月30日)までの231日間は平均して50%と認めるのが相当であり,ダイビングショップについては,症状固定日まで100%と認めるのが相当である。
【コメント】
本件は,うどん店及びダイビングショップの経営者ですが,ダイビングショップについては,「税務申告をしていなかったことが認められ,収入額を客観的に把握することができる的確な証拠は提出されていない」ものです。この場合に,税務申告があったうどん店だけを基礎収入とするのではなく,「稼働能力」として賃金センサスの平均賃金を得られたであろう場合にはそれを適用するとしました。
本件の場合には,事故翌年の収入がそれなりにあり,うどん店の収入と合計して「稼働能力」があるとされたことがポイントとなりました。しかし,後遺障害の程度が重く,事故後の収入が上げられていない場合には,この様な認定は出来ないわけですから,別の方法で「稼働能力」を証明する必要があります。