事業所得者である保険外交員の基礎収入として加算すべき固定経費(特に接待交際費)について詳しく説明している判決です。
保険外交員(男・49歳)につき,
租税公課,水道光熱費,通信費,損害保険料,修繕費,減価償却費,地代家賃,諸会費,研修費,販売促進費,会社控除,支払手数料を固定経費とし,
さらに,接待交際費のうち一部は固定経費と認めることができるとして,
接待交際費200万円を含む合計907万円余を固定経費と認めました。
東京地判平成23年1月26日
自保ジャーナル・第1850号(平成23年7月28日掲載)
被害者は,保険外交員であり事業所得者であるから,基礎収入の認定に当たっては、平成19年の確定申告書に記載の売上金額から経費を控除した1,009万3,953円に固定経費及び接待交際費全額を加算して算出すべきと主張しました。
ア)租税公課
イ)荷造運賃
ウ)水道光熱費
エ)通信費
オ)接待交際費
なお,内訳は,
①冠婚葬祭費・慶弔費・お見舞い金約100万円
②お歳暮・中元の贈り物約80万円
③飲食代約530万円と説明しました。
カ)損害保険料
キ)修繕費
ク)消耗品費
ケ)減価償却費
コ)地代家賃
サ)車両費
シ)諸会費
ス)研修費
セ)販売促進費
ソ)会社控除
タ)支払手数料
チ)雑費
経費が固定経費かどうかは次のとおりである。
ア)租税公課 59万3,200円
固定経費と認められる。
イ)荷造運賃 0円
固定経費とはいえない。
ウ)水道光熱費 6万9,360円
休業中も基本料金等は発生するので、上記金額の限度で固定経費と認めるのが相当である。
エ)通信費 41万4,526円
休業中も基本料金等は発生し、また、事業維持のための必要な通信は発生するから、上記金額の限度で固定経費と認めるのが相当である。
オ)接待交際費 200万円
原告は、接待交際費の内訳について、
①冠婚葬祭費・慶弔費・お見舞い金約100万円、②お歳暮・中元の贈り物約80万円、③飲食代約530万円と説明している。
一般的には、接待交際費は変動経費とされているが、上記①、②は休業中も事業継続のためにやむを得ない支出といえ、固定経費とみることができる。
しかしながら、平成19年より約300万円減収となった平成20年は接待交際費が約60万円減り、平成19年より700万円減収となった平成21年は接待交際費が約130万円減っており、収入減に伴って接待交際費も減少していることや、保険外交員という原告の職業に照らして飲食を伴う接待交際は営業活動そのものの一環であるといえることから、上記③のほとんどは固定経費と評価することはできない。
そこで、接待交際費における固定経費は200万円と認めるのが相当である。
カ)損害保険料 26万2,180円
固定経費と認められる。
キ)修繕費 2,700円
固定経費と認められる。
ク)消耗品費 0円
固定経費とは認められない。
ケ)減価償却費 4万1,685円
固定経費と認められる。
コ)地代家賃 106万1,160円
固定経費と認められる。
サ)車両費 0円
固定経費とは認められない。
シ)諸会費 156万9,000円
原告の職業の内容に照らし、固定経費と認められる。
ス)研修費 82万円
セ)販売促進費 66万4,101円
上記ス)、セ)は講演料等であるから、固定経費と認められる。
ソ)会社控除 115万6,840円
タ)支払手数料 42万495円
上記ソ)、タ)は接待交際費オ)の①、②と同様に評価できるので、固定経費と認められる。
チ)雑費 0円
固定経費と認めることはできない。
ツ)合計 907万5,247円
以上によれば、基礎収入は1,916万9,200円であるから、365日で除すると、1日当たり5万2,518円である(円未満切捨て)。
個人事業者(事業所得者)の休業損害及び逸失利益の基礎収入としては,申告所得額を原則としますが,休業中の固定費(家賃,従業員給料など)の支出は,事業の維持・存続のために必要やむを得ないものは損害として認められます。
本件判決は,判決例としては異色なくらいに詳細に認められる経費の範囲について判断をしています。
特に接待交際費①冠婚葬祭費・慶弔費・お見舞い金②お歳暮・中元の贈り物および③飲食代の一部を認めています。接待交際費がいわゆる変動経費である特徴から収入との関連性も検討しております。
保険外交員という職種の特殊性を考慮しているものとも言え,個人事業者(事業所得者)すべてについて一般化することはできるかは今後の検討課題と言えます。