職業訓練中であり,それが終了した後の就職先は未定の場合に賃金センサスによる休業損害を認める判決です。
職業訓練中は無職であり,しかし一般の学生とも異なる立場です。
そのような場合に無職者として扱われることが多いと思われます。だが,症状の程度,治療期間によっては一定の範囲で休業損害が認められる可能性があると言えます。
本件は,職業訓練生兼短期アルバイト(男・44歳,中心性脊髄損傷9級10号)につき,事故翌日職業訓練が終了した後の就職先は未定であり,直ちに就職できた可能性は低いこと及び事故前の勤務先における年収が約300万円であり年齢等から基礎収入は賃セ男性学歴計全年齢平均の約6割強の350万円としてを基礎収入として休業損害を認めたものです。
京都地判平成23年6月10日
自保ジャーナル・第1862号(平成24年1月26日掲載)
1 事故日時 平成14年12月15日午後2時30分ころ
2 事故状況 信号機による交通整理の行われている丁字路交差点に向けて突き当たり路を走行してきた原告車が同交差点の対面信号機の赤色表示に従い同交差点手前で停止していたところ,被告車が原告車後部に追突した。
(傷害内容) 頸椎捻挫,腰椎捻挫,中心性頸髄損傷,非外傷性精神障害
3 治療状況
本件事故の日から平成18年6月8日の症状固定日までの総歴日数1272日間
4 後遺障害(判決の認定)
9級(自賠責は非該当とした中心性頸髄損傷による残存症状を肯定,またPTSDではないが,非外傷性精神障害を肯定)
5 争点に関連する事実
原告は,事故当時,職業訓練が終了した後の就職先は未定であったこと,P会社に勤務していた当時の年収は300万円程度であったこと,原告は,平成15年3月ころ,印刷屋で約1週間働き,同年6月ころから同年12月まで撮影所で清掃の仕事をしたが,その後は,症状固定日まで仕事に就いていないことが認められる。
基礎収入は,P会社派遣当時(短期アルバイト)の年収額のほか,原告の年齢等も斟酌すると,平成14年賃金センサス第1巻第1表産業計・企業規模計・男・全年齢平均賃金555万4,600円の約6割強に相当する年350万円と認めるのが相当である。
職業訓練中の被害者の休業損害については,次のように判決は考えていると言えます。
1 直ちに,就労はできなかったものの,求職活動期間を除いた期間に対して,症状の程度によっては,休業損害を肯定する可能性がある。
特に,本件は結果的に9級と認定される重症であったことが大きいと言えます。
2 その場合には,賃金センサスどおりの平均賃金までになるかどうかは,職歴,前職の収入,年齢,職業訓練の内容等が考慮されるが,控え目な認定として職業訓練を加味して前職に若干上乗せした金額が基礎収入となる傾向がある。