将来の介護用具(ベッド,車いす)について定期的な買い替えを前提に算定した判決です。

[介護,介護ベッド,常時介護,耐用年数,脊髄損傷,買替,車いす]

介護ベッド代は,概ね10年ごとに買換えを要するものと認められるとしました。
車いす代は,概ね5年ごとに買換えを要するものと認め,介護ベッド代と同じ現価係数による算定をしました。


【いわゆる赤い本平成30p48の判決】
脊髄損傷(1級3号)の被害者(男・19歳)につき,介護ベッド代(1台66万円余)を10年間毎に買い替えるとし96万円余,車椅子代は屋内用(1台34万円余)・屋外用(1台37万円余)・屋外リハビリテーション用(1台31万円余)を概ね5年毎に買い替えるとして,請求どおり合計454万円余を認めた。
さいたま地裁 平成16年1月14日判決(確定)
事件番号 平成14年(ワ)第634号 損害賠償請求事件
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1529号(平成16年2月19日掲載)

【原告と被告の主張】
〈原告〉
(1) 介護ベッド代 223万9,230円
原告武将は,生涯にわたり介護ベッドを必要とし,その価格は1台66万4,125円を下らない。介護ベッドの耐用年数は8年程度であるが,5年ごとに買い換えるものとして,症状固定時からの平均余命57年間の現価額を算出すると,223万9,230円となる。
(算式)664,125×(0.7835+0.6139+0.481+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.142+0.1112+0.0872+0.0683)=2,239,230
(注)0.7835,0.6139,0.481,0.3768,0.2953,0.2313,0.1812,0.142,0.1112,0.0872,0.0683は,それぞれ,ライプニッツ方式による5年後,10年後,15年後,20年後,25年後,30年後,35年後,40年後,45年後,50年後,55年後の現価係数である。
(2) 車いす代 454万5,475円
原告武将は,生涯にわたり,屋内用,屋外用及び屋外リハビリテーション用の車いすを必要とするところ,その価格は,屋内用34万9,200円,屋外用37万3,650円,屋外リハビリテーション用31万6,900円(合計額103万9,750円)である。これらの車いすの耐用年数はそれぞれ5年程度であって,原告武将は既に最初のものを購入しており,今後,症状固定時からの平均余命57年間に5年ごとに買い換えるものとして,その現価額を算出すると,454万5,475円となる。
(算式)1,039,750×(1+0.7835+0.6139+0.481+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812十0.142十0.1112+0.0872+0.0683)=4,545,475
(注)0.7835,0.6139,0.481,0.3768,0.2953,0.2313,0.1812,0.142,0.1112,0.0872,0.0683は,それぞれ,ライプニッツ方式による5年後,10年後,15年後,20年後,25年後,30年後,35年後,40年後,45年後,50年後,55年後の現価係数である。
(3) 車両改造費 359万4,215円
原告武将を介護通院させるために使用する車両は,介護用に車両改造を行う必要があり,これに要する費用は,少なくとも131万7,045円を下らない。自動車の法定耐用年数は6年であるから,症状固定時からの平均余命57年間に6年ごとに買い換えるものとして,その現価額を算出すると,359万4,215円となる。
(算式)1,317,045×(0.7462+0.5568+0.4155+0.31+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717)=3,594,215
(注)0.7462,0.5568,0.4155,0.31,0.2313,0.1726,0.1288,0.0961,0.0717は,それぞれ,ライプニッツ方式による6年後,12年後,18年後,24年後,30年後,36年後,42年後,48年後,54年後の現価係数である。

〈被告〉
(1)介護ベッド代について
原告らの主張はベッドの価格が高すぎるのみならず,耐用年数の点でも,マットレスを10年に1度程度交換すれば足り,ベッド本体については買換えの必要性は生じない。
(2) 車いす代について
屋内用,屋外用の車いすのほか,屋外リハビリテーション用の車いすを必要とすることはない。
また,原告らの主張は車いすの価格が高きに過ぎるものである。
(3) 車両改造費について
一般の乗用車であっても,助手席のシート全体が回転し,障害者が乗降しやすい車両が,多くの車種で提供されているところ,このような車両の価格は通常のものとさほど変わらず,公的助成措置も多数存在する。
そうすると,原告らが車両改造費を負担する必要は生じない。

【判決の要旨】
(1) 介護ベッド代
原告武将の介護のため,症状固定時である20歳時から平均余命57年間にわたり介護ベッドを必要とすることが認められるところ,その価格は1台66万4,125円であって,この製品の場合,概ね10年ごとに買換えを要するものと認められる
そうすると,介護ベッド代の現価額は,96万3,778円となる。
(算式)664,125×(0.6139+0.3768+0.2313+0.142+0.0872)=963,778
(注)0.6139,0.3768,0.2313,0.142,0.0872は,それぞれ,ライプニッツ方式による10年後,20年後,30年後,40年後,50年後の現価係数である
(2) 車いす代
原告武将は,症状固定時である20歳時から平均余命57年間にわたり屋内用,屋外用及び屋外リハビリテーション用の車いすを必要とすることが認められるところ,その価格は,屋内用34万9,200円,屋外用37万3,650円,屋外リハビリテーション用31万6,900円(合計額103万9,750円)であって,概ね5年ごとに買換えを要するものと認められる。
そうすると,車いす代の現価額は,原告主張のように454万5,475円となる。
(3) 車両改造費
上記のとおり,車いすの使用を要する原告の移動のため,自動車を購入する必要があることは明白であるところ,介護用の改造を施した車両と,同種の一般車両との購入代金の差額が121万1,000円あること,介護用車両の耐用期間が6年であることが認められる。
そうすると,車両改造費に相当する損害額は,330万4,819円である。
(算式)1,211,000×(0.7462+0.5568+0.4155+0.31+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717)=3,304,819
(注)0.7462,0.5568,0.4155,0.31,0.2313,0.1726,0.1288,0.0961,0.0717は,それぞれ,ライプニッツ方式による6年後,12年後,18年後,24年後,30年後,36年後,42年後,48年後,54年後の現価係数である。
なお,被告は,一般の乗用車であっても,助手席のシート全体が回転し,障害者が乗降しやすい車両が,多くの車種で提供されているところ,このような車両の価格は通常のものとさほど変わらないと主張するが,助手席のシートが回転するのみであって介護用の改造車でない場合においても,原告武将の安全確保につき支障がないことにつき具体的な主張立証を伴わない以上,上記主張はこれを採用することはできない。

【コメント】
(1) 介護ベッド代
概ね10年ごとに買換えを要するものと認められるとしました。
そして,平均余命までの生存を前提にライプニッツ方式による10年後,20年後,30年後,40年後,50年後の現価係数による算定をしました。これは,逸失利益と同じく,中間利息を控除して将来の価格を現在の価格に引き直す計算方式です。
原告の主張は5年ごとの買い替えでした。
(2) 車いす代
概ね5年ごとに買換えを要するものと認め,介護ベッド代と同じ現価係数による算定をしました。なお,この車いすは手動式の通常のものと思われますので,電動車いすについては,同じ買い替え年数とはならないと考えられます。
(3) 車両改造費
賠償の対象となるのは,車両本体を除いた改造費用です。
判決は,「介護用の改造を施した車両と,同種の一般車両との購入代金の差額」によって改造費用を算定しました。なお,耐用年数は6年としています。

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