過剰・高額診療として1点10円の計算で既払いの医療機関の診療報酬返還を命じた判決例です。

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自由診療契約においても健康保険基準である1点単価10円が原則としました。
その上で,病院が1点単価25円で受領済みの診療報酬を保険会社に対して返還するように命じた判決です。
東京地裁 平成23年5月31日判決
事件番号 平成17年(ワ)第12839号 不当利得返還請求事件(確定)
<出典> 自保ジャーナル・第1850号
(平成23年7月28日掲載)
【いわゆる赤い本平成26年版 p2の同一の判決です】
○保険会社から医療機関に対する不当利得返還請求事件において,医療機関からの1点25円の主張に対し,治療内容及び薬剤について個別に必要性・相当性を検討した上で,1点10円の単価を修正すべき合理的事情(独自の先進的療法等)はないとした。

1 どのような理由で返還を命じたか(クリックすると回答)

保険会社から医療機関に対する不当利得返還請求権として認めました。
既に1点25円を前提にして支払っているものの,医療機関の受領は「法律上の原因がない」として1点10円との差額を不当利得あるいは「過払い」として返還を命じたのです。
しかし,いわゆる一括払いとして保険会社は支払っているのに,何か妙な感じですね。
そこで,一括払いの法的性質が問題となりました。
なお,データベースの範囲では保険会社名は匿名となっております。

2 一括払いの法的性質は(クリックすると回答)

任意保険会社が行う一括払いは,教科書的には自賠責保険との関係で述べられることが多く,あまり正面から法的性質を判決例でも論じておりません。
この東京地裁平成23年5月31日判決は,以下の様に述べています。
「任意保険会社が医療機関に対して一括払いを行ったとしても,通常,保険会社が被害者らの便宜のため,加害者の損害賠償額の確定前に,その範囲内で,治療費を自賠責分を併せて一括して立て替えて支払うものにすぎないのであって,その際に,任意保険会社と医療機関との間で協議が行われたとしても,立替払いを円滑に進めるための手段にすぎず,任意保険会社が被害者と併存的に債務を引き受ける合意をしたものとまで解することはできない。

要するに,被害者の便宜つまりサービスのための立て替え払いに過ぎず保険会社は債務として支払っているものではないんだと言うことです。
だから,「法律上の原因」がないのだから不当利得となるかを検討できると言うことなのです。

3 自由診療契約における報酬額について(クリックすると回答)

この東京地裁平成23年5月31日判決は,この点を次のように述べています。
「自由診療契約における相当な診療報酬額についても,上記健康保険法に基づく診療報酬体系が一応の基準になるということができる。
もっとも,問題となる診療行為が,独自の先進的療法である等,健康保険法の診療報酬体系を基準とするのが相当でない合理的事情が存する場合にまで,上記基準に従うことが相当ということはできないから,そのような場合には,当該事情を考慮し,上記基準に修正を加えて,相当な診療報酬額を決するのが相当と言うべきである。」
要するに,自由診療契約であっても,診療報酬額は原則としては健康保険にも基づく診療報酬体系が一応の基準となると言うことです。
つまり1点単価10円原則論です。そして,「健康保険法の診療報酬体系を基準とするのが相当でない合理的事情」を医療機関が主張・立証義務を負うとしています。

4 本件判決の意義について(クリックすると回答)

本件の医療機関は自由診療契約に基づいて1点25円の請求を保険会社に対して行って一旦は受領しています。
しかし,保険会社は,被害者との和解成立後に支払済みの診療報酬は高額であったとして健康保険基準によるべきだとして返還請求訴訟をしたのです。
判決は,それを全面的に認めるものです。
「なお,付け加えると,鑑定の意見にあるとおり,保険会社が医療機関に対し一括払いをした後に既払い分の返還請求をすることは,交通事故の解決及びその被害者の保護には決して望ましいことではないから,制度に不備があるのであれば,その改善が望まれるところである。」と判決の最後に「言い訳」のような補足を加えているのは,苦しい胸の内かもしれません。
現実に1点25円というのは,「やり過ぎ」の印象もあり,判決で詳細に検討しているとおり果たして必要性・相当性があったのか疑問とされる治療もあり,結論は妥当とまで言えずとも,やむを得ないと言えそうです。

5 結論(クリックすると回答)

一括払いの法的性質については,判決の流れを示すものだと思います。
しかし,自由診療契約において原則として診療報酬金額は健康保険体系を前提に1点10円として,例外的に合理的事情があれば修正をするという点については,まさに,いわゆる1点単価10円判決(東京地裁平成元年3月14日判例タイムス691号p51)の踏襲です。
この1点単価10円判決については,交通事故における重篤な患者の急性期における救命救急治療の実態を無視するものとして批判のあるところです。
赤い本は,多くの法律実務家のみならず保険関係者も愛読するものです。
一部医療機関に高額診療の実態があるとしても,問題を単純な健康保険基準との比較に収斂させることは慎むべきです。

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