家事労働者(主婦)分に年金分を加算して逸失利益を算定した判決です。
主婦のほか夫と共に農作業にも従事していた63歳女子の死亡事案です。
年金分もありました。
この場合の逸失利益について,家事労働については,賃金センサス全年齢平均を基礎に,平均余命の半分である12年間,生活費を40%控除して算定し,年金部分に関しては,平均余命の25年間,生活費控除を60%として算定しました。
福井地裁 平成21年2月12日判決
<出典> 交民集42巻1号140頁
死亡した被害者は,本件事故当時,63歳の健康な女性であり,夫である原告甲野太郎と2人で生活し,専業主婦として家政一般の仕事に従事するほか田畑での農作業にも従事していました。
また,同じ敷地内の別家屋に長男である原告甲野三郎家族が居住しており,長男の妻がパートに従事していたため,孫2人(6歳,3歳)の迎えなどの面倒もみていました。
この被害者の死亡逸失利益をどう考えるか問題となりました。
被害者が従事していた家事労働に属する労働は,労働社会において金銭に評価され得るものであり,これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから,被害者が自らこれら家事労働に従事していたことにより財産上の利益を生じていたものというべきである。
そこで,これを金銭的に評価するに,上記認定の被害者の年齢,健康状態,家事労働の内容等を総合考慮し,賃金センサス平成18年第1巻第1表における産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者全年齢平均年収343万2,500円を基礎とした上,本件事故に遭わなければ,平均余命である25.22年(平成18年簡易生命表)の2分の1に相当する12年間,同様の家事労働に従事することが可能であったとみて算定するのが相当である。
家事労働と他の労働とを合わせて一人前の労働分として評価するのが相当であるといえるとしても,そのような場合と異なり,家事労働に従事する主婦に年金収入がある場合には,それにより家事労働の質量が劣るのが通常であるとはいえないことから,特段の事情のない限り,両者を加算する算定方法が失当であるということはできない。
被害者が年金を受給している場合には,家事労働に関する逸失利益に加えて,平均余命までの期間について年金の逸失利益を対象とする賠償が行われる。
この扱いは,確立しているとされています。
(「交通事故紛争処理の法理」交通事故紛争処理センター創立40周年記念論文集 早稲田大学教授吉田克己 p227より)