人身傷害補償保険金あるいは無保険車傷害保険金を損害賠償金額の遅延損害金に充当することはできず,元本に充当するとした最高裁判決です。
人身傷害補償保険金,無保険車傷害保険金 のいずれも被害者等の損害の元本を填補するものであり遅延損害金を填補するものではないと解される。と判決しました。
(注)
人身傷害補償保険金とは,被害者側が加入している自動車保険で,被保険者が自動車の運行に起因する急激かつ外来の事故によって身体に傷害を受けた場合にが支払われるものです。
無保険車傷害保険金とは,加害者が自賠責保険のみで対人賠償責任保険の任意保険に未加入であった場合(これを無保険車と言います。)に,被害者が加入する保険会社から支払われるものです。
1 問題は,どういうところにありますか。
交通事故の損害賠償に関して,自賠責保険金を被害者請求で取得した場合において元本ではなく遅延損害金に充当することは認められています(最高裁平成16年12月30日判決)。
その充当が認められることで元本に充当する場合に比べて残る金額は当然に多くなります。
その後,労災給付等の社会的給付のみならず,被害者側が加入している自分の任意保険会社から支払われる人身傷害補償保険金・無保険車傷害保険金についても遅延損害金への充当が主張されるようになり,それらの決着をつける必要性が出ていました。
2 判決の該当部分は,どうなっていますか。
(1)最高裁 平成24年2月20日判決(人身傷害補償保険金)
本件約款によれば,上記保険金は,被害者が被る損害の元本を填補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を填補するものではないと解される。
そうであれば,上記保険金を支払った訴外保険会社は,その支払時に,上記保険金に相当する額の保険金請求者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである。
(2)最高裁 平成24年4月27日判決(無保険車傷害保険金)
本件約款によれば,無保険車傷害保険金は,被害者等の被る損害の元本を填補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を填補するものではないと解されるから,本件約款に基づき被害者等に支払われるべき無保険車傷害保険金の額は,被害者等の被る損害の元本の額から,被害者等に支払われた自賠責保険金等の全額を差し引くことにより算定すべきであり,自賠責保険金等のうち損害の元本に対する遅延損害金に充当された額を控除した残額を差し引くことにより算定すべきものとは解されない。このことは,自賠責保険金等が無保険車傷害保険金の弁済期後に支払われた場合であっても,異なるものではない。
3 コメント
最高裁平成16年12月30日判決で示された被害者からの遅延損害金への主張がどこまで可能であるか,つまり,射程範囲が被害者側が加入している保険契約の範囲では決着が付いたと言うことになります。
厳密には,人身傷害補償保険金と無保険車傷害保険金の性格の違いはありますが,いわゆる実質填補型の損害保険です。
この場合には,遅延損害金ではなく元本債務に充当すると言うことになります。