まだ受給されていない介護保険給付分を将来の介護費用分から損益相殺することはできません。
受領していない介護保険給付分を将来の介護費用から損益相殺することはできないとした判決です。
さいたま地裁平成17年2月28日判決平成15年(ワ)第382号損害賠償請求事件
自動車保険ジャーナル・第1586号
【事案の概要】
独身の二男会社員と同居の被害者(当時72歳女子家政婦)は,平成13年12月13日,埼玉県富士見市内の道路を自転車で進行中,加害者運転の乗用車に左後方から衝突され,脳挫傷等で91日入院,寝たきりの1級3号を残し,病院,介護センター入院中も6か月で退院を促されており,年間125日は近親者在宅介護料日額1万円の,年間240日は職業人14,634円+2,000円請求の介護料等を求めて訴えを提起したものです。
【判決の趣旨】
加害者は,被害者の将来の介護費用の算定につき,被害者が介護保険法に基づき,将来給付を受ける介護保険給付について,損益相殺をすべき旨主張するが,
そもそも,介護給付を受けるか否かは,被害者の選択によること,
介護施策が未来永劫に同一であるとの保証はなく,法改正により,施策の変更される可能性があること,
介護度の変化は予測困難であること,
介護保険給付は,福祉的給付であり,損害賠償義務者の負担を軽減する制度ではないことからして,
被害者が未だ受領していない介護保険給付について,損益相殺すべきとの加害者の上記主張は,採用できない。
【コメント】
将来の介護費用から将来の介護保険給付を損益相殺として控除,つまり差し引くことができない理由をコンパクトに説明しています。
(1)介護給付を受けるか否かは,被害者の選択による
(2)介護施策が未来永劫に同一であるとの保証はなく,法改正により,施策の変更される可能性がある
(3)要介護度の変化は予測困難である
(4)介護保険給付は,福祉的給付であり,損害賠償義務者の負担を軽減する制度ではない
この中で,(2)(3)は,従前通りの将来の給付請求権,つまり債権として確実なものではないことの理由付けであると思われます。しかし,(1)については,他の判決でも見られますが,給付を受けるかは被害者である本人の自己決定権によるものとするものです。また,(4)は,介護保険給付は,福祉的給付であるという制度趣旨によるものです。