既存の身体障害を有する被害者が後遺障害1級となった場合の逸失利益で,後遺症慰謝料についての判決です。

[慰謝料,既存障害,身体障害,素因減額,逸失利益,1級]

既存の身体障害を有する被害者(男性 当時51歳)が  ,本件事故により外傷性脳内出血,外傷性尿管損傷,骨盤骨折等の傷害を負い,その結果として1級3号を残し別の原因で死亡した後遺症慰謝料を1,500万円としました。
なお,逸失利益については,労働能力を100%喪失したことを認めて既存障害を問題とはしませんでした。

大阪地裁 平成14年4月23日判決(確定)
事件番号 平成13年(ワ)第3009号 損害賠償請求事件
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1456号(平成14年8月29日掲載)

【事実の概要】
51歳男子であり姉と食料品店を経営し母を扶養する被害者は,平成10年2月17日午前11時ころ,片側1車線道路に原付自転車で右折進入した際,被告運転の普通貨物車に衝突され,外傷性脳内出血,外傷性尿管損傷,骨盤骨折等の傷害を負い231日入院を含む574日後の平成12年5月12日,別の原因で死亡しました。
既存障害として右下肢機能障害等併合4級を有していたが後遺障害1級3号となったことから,後遺症慰謝料を1,500万円としました。なお,逸失利益については,労働能力を100%喪失したことを認めて既存障害を問題とはしませんでした。

【判決の要旨】
被害者が,身体に既存の障害を有していたことは被告主張のとおりであるが,同障害による日常生活への影響は,跛行以外にほとんどなかったことが認められ,かつ,同障害が存在したにもかかわらず,被害者が前記のとおり一家の生計を支えうる程度の収入を上げていたことが認められることからすれば,逸失利益の算定に際し,既存障害による労働能力喪失率への影響を考慮するのは相当でない。

【コメント】
既存障害がある場合に,重度後遺障害が事故で残存したとすると,その既存障害はどのように評価されるのか。端的に言って,認定された障害等級と既存障害の差で判断されるのか(既存障害に対して新たな障害を言わば加重障害とみるもので加重障害説としておきます。)という問題です。
本件では,逸失利益については,既存障害を全く考慮しませんでした。それは実質的には,「障害が存在したにもかかわらず,被害者が前記のとおり一家の生計を支えうる程度の収入を上げていたことが認められることからすれば逸失利益の算定に際し,既存障害による労働能力喪失率への影響を考慮するのは相当でない。」と言うことに述べられています。すると,自賠責でいう加重障害と全く同じように形式的には考えていないと言うことが逸失利益については言えます。したがって,加重障害説に対して,既存障害を言わば素因と同じように考えていると言うことから,素因減額説と言えます。
素因と同じように考えるために,影響を与えていない場合には減額をしないことが正当化できます。

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