専門学校生が事故により取得できなかった場合の休業損害の基礎収入に関する判決です。
専門学校生の事案です。しかも着付けの免許取得を目的とする学校でした。この様な場合には,卒業がそのまま就職に結びつくものではなく免許取得が就職に有利と言うことだと考えられます。本件判決は,免許取得により平均賃金の8割が得られたとして基礎収入としました。
着付けの免許を取るため専門学校へ通いながら店員アルバイトをしていた被害者(女・19歳)につき,事故がなければ免許を取れたと認められるが,他方アルバイトの収入が月額7万円であったことから,女性年齢別平均の8割に相当する217万1040円を基礎(収入)に,29か月間536万円余を認めたものです。(神戸地判平成13年12月14日)。
なお,自動車保険ジャーナル・第1454号(平成14年8月8日掲載)
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【事案の概要】
1 事故日時 平成10年11月11日午後2時59分ころ
2 事故状況 信号待ちで停車中の原告車両に,後方から走行してきた被告車両が追突した。
(傷害内容) 頸椎捻挫,胸部打撲,背部痛及び腰部捻挫(判決は,PTSDについては否定)
3 治療状況
29か月19日間に187日実通院
4 後遺障害
なし
5 争点に関連する事実
原告は,本件事故後,頸椎捻挫,胸部打撲,背部痛及び腰部捻挫について,投薬,リハビリ等の治療を受けていたが,その後,不安感,焦燥感等が増悪し,精神的に不安定で自閉的,易怒的となり,不眠,吐き気,胃痛,めまいのほか,対人恐怖,外出困難等の症状を呈するようになったこと(以下,これらの症状を総称して「本件症状」という。),原告は,本件症状に対し,○○病院の精神内科等において,平成11年2月ころから,薬物療法及びカウンセリング療法を受けるようになったが,本件症状は軽快せず,平成13年4月30日現在においても,直ちに自宅に戻ることができる範囲内でしか行動することができず,家事を行うことは何とか可能であるものの,就労することは困難であるという状態が続いていることが認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
【判決の趣旨】
原告は,高等学校を卒業後,着物の着付けの免許を取得するため専門学校で学びながらアルバイトをしていたこと,本件事故当時は親戚の経営するスーパーマーケット「フードショップ甲乙丙」でレジのアルバイトをして,1ヶ月平均7万円程度の収入を得ていたこと,本件事故により同アルバイトを辞めざるを得なくなり,また,着付けの免許を取得することもできなくなったことが認められる。
原告は,休業損害の額として,賃金センサスによる女子年齢別平均給与額を基に算定した金額を主張しているところ,原告が着付けの免許取得のため勉強中であったこと,本件事故により同免許を取得することができなくなったこと,本件事故がなければ着付けの免許を取得の上,相応の収入を得ることが可能であったと推認されること等の事実に照らせば,賃金センサスによる平均給与額を基礎収入として原告の休業損害の額を算定すべきとする原告の主張には,一応の合理性がある。
もっとも,本件事故当時の現実の収入額が上記のとおり1ヶ月平均7万円程度であったことを考えると,賃金センサスによる平均給与額をそのまま基礎収入として原告の休業損害の額を算定するのは相当ではなく,平成10年賃金センサス産業計・企業規模計・高卒女子労働者20歳~24歳の平均給与年額271万3,800円の8割に相当する年額217万1,040円をもって,休業損害算定の基礎とすべき収入額とするのが相当というべきである。
そして,原告については,本件症状のため,上記のとおり(注:「5 争点に関連する事実」),平成13年4月30日現在においても,直ちに自宅に戻ることができる範囲内でしか行動することができず,家事を行うことは何とか可能であるものの,就労することは困難であるという状態が続いていることが認められる。
したがって,原告が請求する平成10年11月12日~平成13年4月30日までの間(平成10年11月12日~同月末日までの19日間及び同年12月1日~平成13年4月30日までの29ヶ月間)の休業損害の額は,次のとおり,535万9,692円となる。
(217万1,040円÷365日=5,948円)×19日間+(217万1,040円÷12ヶ月=18万0,920円)×29ヶ月間=11万3,012円+524万6,680円=535万9,692円
【コメント】本件は,学生の卒業の遅れに伴う就職遅れとは少し様相が異なります。着付けの免許取得のための専門学校生でアルバイトもしていたという事例です。さらに,難しいことに,外傷後の精神的な疾患で身体症状が出現して,そのために治療期間も相当期間に及んだため,その点がいわゆるPTSDに該当するかが争点となりました。
判決は,PTSDは否定したものの,本件事故によって着付けの免許が取得できなく就職に支障が生じた不利益を救済使用したことがうかがえます。
結論からすれば,基礎収入については,原告が主張する高卒女子労働者20歳~24歳の平均の8割としましたが(アルバイトによる現実収入とのバランスを理由としています。),期間は29ヶ月余という比較的長期間にわたって認めました。