固定時54歳の保険外交員について,67歳まで現実収入724万円余を逸失利益の基礎収入としました。
保険外交員(女・受傷時53歳,固定時54歳・四肢拘縮,意識障害等があり意思疎通が困難別表第1の1級1号)
事故前年(注:平成14年)の現実収入724万円余を基礎として,60歳定年があるものの67歳まで100%の労働能力喪失をみとめた判決です。さいたま地判平成21年2月25日
交民集42巻1号218頁
【事案の概要】
1 事故日時
平成15年2月14日午後6時6分ころ
2 事故状況
信号が設置された交差点で左折する普通乗用車と青信号に従って横断歩道を走行した自転車とは衝突した事故につき,被害者の前にも2台ほど自転車が通過していったことから,横断歩道を走行したことはやもえないことであったとして被害者に落ち度はなく加害者の一方的な過失と認めた。
(傷害内容) 急性硬膜外血腫,頭蓋骨骨折等
3 治療状況
平成16年3月23日に症状が固定まで治療期間入院
4 後遺障害
1級1号
5 争点と関連する事実
ⅰ 原告花子は,本件事故当時,○○生命相互会社上野支社に勤務し,毎月3件から9件の新規契約を締結し,新契約増加成績月額2,000万円から1億4,700万円の成績を上げていた。
平成12年には,同社の首都圏営業職員成績上位120人に与えられる「パイオニア21ブロック120傑」の資格を表彰されるとともに,新職員の採用に功労があった者に与えられる「新採用功労営業職員賞」を授与されたほか,同社内外からの表彰を受け,営業成績のみならず,営業職員の採用・育成についてもその能力は高く評価されていた。
ⅱ ○○生命保険相互会社の営業職員就業規則によれば,営業職員は満60歳の誕生日が到来したとき定年退職するものとされているが,本人が希望する場合は,満60歳の誕生日以降1年ごとに,満65歳の誕生日が到来するまで勤務期間を延長することができる。
また,65歳に達した際,満65歳の誕生日の属する月の前月までの1年間において成績が月平均取扱件数2.0件以上,月平均計上成績900万以上などの成績要件,月平均欠勤日数が1.5日以内であることなどの基準を満たし,会社が適当と認める者については,65歳以降も70歳まで特別営業嘱託として就労が可能であり,さらに70歳に達した際,直前1年間の成績が月平均540万以上,または1年間の取扱い件数が12件以上などの要件を満たし,会社が適当と認める者については75歳まで新別格営業嘱託として就労が可能とされている。
ⅲ ○○生命上野支社王子営業所においては,平成18年11月現在,32名の営業職員が在籍し,うち6名が60歳以上,1名が70歳以上の職員である。
【判決の趣旨】
ⅰ 基礎収入
上記のとおり,原告花子が保険外交員であり,契約成立成績による収入変動があったことからすれば,事故前年1年の年収を基礎とするのが相当である。
被告は,一般に事故当時の収入を就労可能年限まで得られる蓋然性は低いから,60歳以降の基礎収入については賃金センサス等によって相当な基礎収入を算出すべきであると主張するが,一般にそのようにいえるかは疑問であり,むしろ就労可能年限近くにおいては退職金の支給がなされる場合が多く,本件の○○生命においても退職金規定があり,原告花子が勤続20年以上かつ55歳以上となれば退職年金の支給規定が適用されていたことも考慮すれば,事故前の実収入を基礎収入として就労可能年限までの逸失利益を計算することには合理性があり,被告の主張は採用できない。
ⅱ 労働能力喪失期間(73歳まで就労可能とすべきか)
本件事故以前の約3年間において,原告花子はかなり優秀な成績を上げていたことが認められるが,○○生命保険相互会社において,特別嘱託職員として70歳まで就労可能か否かは,65歳になるまでの直近の1年間の成績等により決まることとされ,さらに70歳以降も引き続き就労可能か否かは,70歳になるまでの直近の1年間の成績等により決まるとされており,原告花子は事故時53歳であり,上記年齢に達するまで相当の期間があることからすれば,原告花子が73歳まで働けることが相当程度に確実であったと認めることはできない。
確かに,保険外交員という職種からすれば,勧誘技術や交友範囲は勤務年数に従い向上ないし拡大するのであるから,原告花子は,65歳以降の就労可能性を判定する時期まで優秀な成績を保つことが可能だという原告らの主張も理解できないではないが,その業務内容は,外回りの営業を要するものであり,加齢に伴う体力面の衰えによる活動量の低下も無視することはできないことからすると,やはり原告花子が67歳をこえて稼働できることが相当程度に確実だということはできず,就労可能年数を67歳までとするのが相当である。
ⅲ 中間利息控除率及びその方法
上記のとおり,中間利息控除の方法は,年5%の中間利息をライプニッツ方式によることとし,休業損害額算定との均衡から,症状固定時の現価にひき直すこととする。
以上を前提に,原告花子の逸失利益を計算すると,以下のとおりとなる。
724万8,288円×9.394(労働能力喪失期間13年に対応するライプニッツ係数)=6,809万0,417円
【コメント】
本件は,事故前の長年にわたり生命保険外交員としてトップセールスをしていた女性被害者の事例です。そのため,賃セ男性学歴計年齢別(50から54歳)平均をはるかにしのぐ収入がありました。「定年退職を考慮しない代わりに,退職金も考慮しないことが多いが,定年までの収入が相当高額で,定年後はそれだけの収入を維持することが難しいと見られる場合には,定年後の期間については,賃金センサスの被害者の属する性の学歴計60ないし64歳の平均賃金又は現実収入の一定割合を基礎収入として採用することがある。」(交通損害関係訴訟 八木・佐久間 青林書院 p77 )。に関係します。
つまり,退職金を考慮しない代わりに,事故前の現実収入を基礎収入として,しかも,「一定割合」という割合的に減額しないで,そのまま67歳まで100%認めました。
5 争点と関連する事実 でも引用したとおりの過去の実績と,勤務先の保険会社における就労・収入実績を踏まえての判断です。