シートベルトしていなかったことで同乗者の損害を減額した,あるいは,しなかった最近の判決です。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所
同乗死亡の被害者にシートベルト不装着と飲酒承知同乗として損害の25%を減額した判決(東京地裁 平成19年3月30日判決 <出典> 自動車保険ジャーナル・第1707号)
この判決は,道交法上のシートベルト装着義務の名宛人は運転者であるけれども,同乗者の生命,身体を保護するためのものであるから,同乗者が自らの生命,身体を保護するために当然に負うべき義務であるとしています。
そして「被害者がシートベルトを装着していれば,これらの傷害の程度を軽減できた可能性は否定できない」として過失相殺をしています。
乗用車助手席同乗中の被害者(22歳女子)は,同居して3ヶ月の運転者三郎が無免許運転であったことが本件事故の発生及び損害の拡大に寄与したものとは認められない。
しかし,被害者の傷害の部位及び程度に照らして考えると,シートベルトを着装せず,両足をダッシュボードに乗せる格好で助手席に座っていたことは,本件事故による負傷の程度を大きくしたものと考えられる。
したがって,その損害の発生及び拡大につき過失があるものと認められるところ,対向乗用車の一方的な過失で,その衝撃自体激しかったことをも併せ考慮して損害額から5%を減ずる判決(横浜地裁 平成18年5月26日判決 <出典> 自動車保険ジャーナル・第1661号)
亡花子にはシートベルト不装着の事情もあるが,本件事故による車両損傷状況は,実況見分結果の分析に沿うものであり,争いのない事実等記載の死因,同じく不装着の被告の事故後の行動逮捕状況からは,被告に大きな怪我がなかったことからみても,亡花子の死亡とシートベルト不装着の間に因果関係があるとは認められず,この点でも過失相殺すべきではないとする判決(大阪地裁 平成18年7月20日判決 <出典> 交民集39巻4号1043頁)
本件事故の態様と原告の傷害及び後遺障害の内容からは,損害発生または拡大にシートベルト不着用が寄与していたと推認できるから,その他本件にあらわれた一切の事情を総合考慮して,損害の公平な分担という見地から,損害から10%の減額した判決(大阪地裁 平成22年11月1日判決 <出典> 交民集43巻6号1401頁)
亡花子は,深夜,被告次郎の実家に同人を迎えに行き,一緒にドライブをしていた際に,無免許であることを知りながら被告次郎に対し本件車両を貸した。
亡花子は,被告次郎が速度違反の状態で運転していた本件車両の助手席に同乗していた。
亡花子は,本件事故当時,シートベルトを着用していなかったところ,同人が本件事故の衝撃により車外に放出されて死亡した。
これら経過に鑑みると,シートベルトの不着用が損害を拡大させた原因となっている可能性が高いことが認められ,これらの事由に照らすと,損害の全体について4割の減額をする判決(岐阜地裁 平成25年7月19日判決 <出典> 自保ジャーナル・第1905号)
タクシーの客として同乗中,急ブレーキによって受傷したとの原告(専業主婦)について,
運転者には,「後部座席に乗車する者についても,シートベルトを装着させる義務が定められている」とし,被告が「乗客の目につきやすい箇所にステッカーを貼付することで装着を促したのに対し,原告は,シートベルトを装着しなかった。
上記義務は運転手であるYが負う義務であるが,被告車両がタクシーというサービス業であることからすれば,乗客に対する装着指示の方法にはおのずと限界があるというべきであり,ステッカー貼付による指示も相当な方法とみることができる。
他方,原告は事故の約1ヶ月前に運転免許を取得したばかりで後部座席のシートベルト装着義務も理解していたにもかかわらず,シートベルトを装着しなかった。
急ブレーキによりシートベルトを装着していれば,急ブレーキにより腕や体が運転席にぶつかるようなことにはならなかったものと認められ,本件事故による原告の傷害も軽減された可能性が高い」として,「原告がシートベルトを装着しなかった点について過失相殺をなすべき」として1割の過失相殺を適用した判決(大阪地裁 平成26年7月25日判決 <出典> 自保ジャーナル・第1932号)