胸腹部打撲内出血等を負った被害者が肝硬変で死亡した事案で,事故との相当因果関係が,認められることがあります。---交通事故賠償は,むさしの森法律事務所
胸腹部打撲内出血等を負った被害者(当時64歳男性)が,53日後肝硬変で死亡した事案です。
事故との相当因果関係は認められたが,事故の死亡に対する寄与割合が60%とされました。
東京地裁 平成11年2月23日判決
平成8年(ワ)第11642号(確定)
<出典> 自動車保険ジャーナル・第1313号 交民集32巻1号317頁
【事案の概要】
肝性脳症で運転不適当と診断されていた被害者(当時64歳男性)が,平成7年5月20日午前1時55分ころ,乗用車を運転中,事故により胸腹部打撲内出血等で53日後に肝硬変で死亡しました。
裁判所は,「肝硬変があったところへ,外傷の影響によって肝不全に陥った」と本件事故との相当因果関係を認め,死亡への本件事故の寄与度は「自動車の運転をすることは不適当なほどの重い症状であった」ことから60%と認定しました。
死亡逸失利益は,賃金センサス65歳以上の3分の1として,喪失期間は主治医ですら「1年以上の余命がわからない」とするほど「健康状態としては悪かった」ことから3年間として,生活費40%控除で認定しました。
【判決のポイント】
外傷と肝硬変とのそれぞれの寄与の割合については,医学的な見地から,どちらが何割ということは困難です。
すると持病である肝硬変と事故との寄与割合が問題となります。
医学的な判断が困難であるとすると,この点は,ある意味で規範的な判断を加えざるを得ないものです。
本件において,被害者は肝性脳症が出て自動車の運転をすることは不適当なほどの重い症状であったこと,主治医の見解でも1年以上の余命については確実なことはいえないことが認められます。
一方で,被害者の病状は悪いながらも安定しており,事故がなければ,この時点で死亡するということはなかったと言えます。
このような観点からは,本件の事故の死亡に対する寄与割合は60%とするものです。
【コメント】
肝性脳症とは,一般に肝不全で引き起こされる脳障害を意味します。
初期には指南力,注意力,集中力の低下が見られ,進行すると意識が混濁して昏睡に至るものです。
被害者は,肝硬変から肝性脳症にも至っており,肝臓の状態は医師からも「余命1年」とされる位に悪いものでした。
従って,「外傷の影響によって肝不全に陥ったものと認められるものである。」ことから本件事故で胸腹部出血を引き起こしたことから死亡との因果関係は認められるものです。
判決は,被害者の「素因」である「肝性脳症に至った肝硬変」と本件事故による外傷の両方が死亡に対する原因となっているとしています。
つまりいずれもが死亡に対して因果関係があると言うことを前提に寄与割合を問題として,その上でそれは医学的に判断できない以上は,「規範的」に検討するというプロセスをとっています。
結論は60%は事故にある,逆に言うと40%は肝硬変という病気が原因と言うことです。5対5ではなく,やや事故の加害者に重たいという判断です。