62歳自営業廃業後に無職であっても具体的な就職話があり健康で就職意欲もあったこと等から休業損害を認めた判決です。
約1年半前に運送業を廃業後無職の被害者(男・62歳)について,具体的な就職話があり健康で就職意欲もあったこと,求職期間等を考慮して事故から3ヶ月後には運転手の仕事に就く蓋然性が高かったとし,症状固定まで570日間,賃セ男性学歴計60歳から64歳平均の7割を基礎(収入)に(休業損害)493万円余を認めたました。
名古屋地判平成18年3月17日
自動車保険ジャーナル・第1650号(平成18年8月10日掲載)
原告(当時62歳)は,貨物運送業をしていたが平成13年初め頃に廃業し,失業中で求職をしており本件事故当時まで再就職は決まってはいなかったが,二,三件の具体的な話が進んだことがありという状態でした。
それを前提にして休業損害が認められるか,基礎収入はどうなるのか問題となりました。
原告は,具体的な就職話があり健康で就職意欲もあったこと,求職期間等を考慮して事故から3ヶ月後には運転手の仕事に就く蓋然性が高かったと認められるが,本件全証拠によっても原告が将来,年齢別の平均賃金を得る蓋然性の立証があったと認めるには足りない。
原告の経験,年齢,その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,原告の基礎収入は,平成14年賃金センサス,産業計・企業規模計・男性労働者学歴計60歳から64歳の平均賃金451万2,400円の7割に相当する315万8,680円(1日当たり8,653円)とするのが相当である。
失業中で無職あったが,休業損害を認めた事例です。
無職者についても休業損害が認められる可能性は一般論としてあります。要件としては以下のことが挙げられます。
1 職歴があり,その際の収入状況が立証されている
2 無職者となったことについての合理的な説明ができる
3 事故当時,就労可能な心身の状況にあったといえる
4 事故当時,求職活動を行っていたと言える
本件について,検討してみましょう。
1 職歴があり,その際の収入状況が立証されている
「貨物運送業をしていたが,平成13年初め頃に廃業し」との認定されていますが,収入状況についてはありません。
2 無職者となったことについての合理的な説明ができる
この点も,1で説明がついていると言えます。
3 事故当時,就労可能な心身の状況にあったといえる
「原告は,健康で就業意欲もあり,運送業をしていた経験もあった」としている反面で,「原告は,交通事故で長男を亡くしていることなどから,本件事故の半年後から抑うつ気分や無気力等の精神症状が出現し」として,直ちに就労ができる状況ではなかった点も指摘しています。この点が休業期間に制限を設ける根拠となっています。
4 事故当時,求職活動を行っていたと言える
「息子と同居しながら求職をしており,本件事故当時まで再就職は決まってはいなかったが,二,三件の具体的な話が進んだことがあり」として認定しています。
基礎収入としては,男性労働者学歴計年齢別の7割にとどまったのは,平均賃金まで得られる蓋然性が,過去の職歴,収入から証明ができなかったためと考えます。
また,就労の意欲と能力があったものの,直ちに就業できる状況とは言えないために,休業期間としては事故から3ヶ月を空けた期間となっています。