Q.将来の介護費用を年金のように2ヶ月に1回の支払いをさせることができますか。
A.
いわゆる定期金賠償方式です。
可能ですが,本当にそうすべきかを検討して下さい。
1 定期金賠償とは何ですか。
損害賠償は,様々な損害項目(費目)を合計した金額を一括した一時金として支払うことが原則です。これに対して,年金のように定期的に一定の支払時期を定めて支払うやり方もあります。これが定期金賠償の問題です。
主に植物状態(遷延性意識障害)となった被害者における将来の介護費用が問題となります。
2 定期金賠償の問題が起こるのは,何故ですか。
①将来の予想できない問題に対応するためです。
(ア)仮に,植物状態となった場合には,健常者の平均余命まで生存することが可能であるかどうか不確かな面があるからです。
この点は,交渉や裁判の場面で生存している被害者に対して正面から議論することについては,はばかられ,なかなか抵抗のあるものです。
(イ)また,その点に関連して,将来の介護費用については,既に別の論点において述べましたように,判例は,相続を認めず,切断するとしています(最高裁第1小法廷平成11年12月20日判決 民集53・9・2038)。
すると,一時金として将来の介護費用を受領した場合において,被害者が平均余命まで生存するかどうかにより被害者側が必要以上な利得をしてしまうか,あるいは逆に損失を受けてしまうのではないかという考慮があります。
(ウ)さらには,介護費用の単価について,介護保険施行とともに,それに併せて上昇をしてかなりの高額となってきました。
②もう一つの側面は,被害者側,つまりは損害賠償請求権者からのものです。
(ア)一時金だと中間利息として年5%控除され手取額としては,いかにも少ないという気持ちが残ります。過失相殺があればなおのことです。
そこで,定期金払いにすれば,その中間利息控除が回避できるのです。
(イ)事件や被害を風化して欲しくないという,制裁的な気持ちからです。つまり,定期的に支払えば,その都度,加害者も思い出して反省の念を抱くだろうと言うことからです。
3 それでは将来の介護費用については定期金賠償を認めるべきでしょうか。
上の観点からすれば,将来の予想ができない問題があることから定期金賠償になじむと言えます。
他方,定期金賠償とするときに加害者と被害者とどちらにメリットがあるかの点では,将来の予想できない問題に対応できることは加害者側,つまり賠償側に多大なメリットがあると言えます。
仮に被害者が平均余命まで生存できないという心証を持っている場合には,加害者側から積極的に定期金賠償の申立がされることが多いと言えます。
4 被害者側の同意の必要性
上で述べたとおり,将来の介護費用を定期金とすることは,加害者側にメリットがあることから,被害者側,つまり損害賠償請求権者の請求が必要です。
従って,被害者側が請求をしないで一方的に認められることはありません。但し,この請求は明示ではなくとも,黙示であっても良い(つまりはっきりとした意思表示がなくても,そのつもりがあると思われればよいと言うことです。)とされています(東京地裁平成8年12月10日判決 判例時報1589号81頁)。
さらに,現行民事訴訟法第117条が「定期金による賠償を命じた判決」の文言を入れていることから被害者側に不利益がない場合には請求がなくても定期金賠償を命じることができるとする判決もあるので注意が必要です。
5 定期金賠償の問題点
その1(履行の保証)
将来の介護費用について定期金賠償となると,長丁場となりますので,支払う側にきちんと約束を守る,つまり履行の確保がなされいないといけません。
損害保険会社の統合が相次いで行われて,現在では,一段落した感があります。
しかし,長期的な経済予測については,誰も保証することはできず,これを払拭しなければ納得することはできません。
安全な履行確保のシステムが確立しない限りは手放しで承諾すべきではありません。
その2(公的給付との関係)
生活保護,介護保険などの公的給付を受けている場合には,一時金賠償であれば,一定の期間はこれらの公的給付を停止されます。
しかし,一時金がなくなれば再開されます。他方では,定期金賠償を受けるとなると,最後まで公的給付が停止されたままで結局は支給されないのではないか理論的には考えられます。そのようなアンバランスが場合によっては生じる恐れがあります。
6 結論
被害者側であるあなたが望めば,定期金賠償となる可能性は極めて高いと思います。
しかし,定期金賠償にも問題があることを理解して選択をしてください。
いわゆる定期金賠償方式です。
可能ですが,本当にそうすべきかを検討して下さい。
1 定期金賠償とは何ですか。
損害賠償は,様々な損害項目(費目)を合計した金額を一括した一時金として支払うことが原則です。これに対して,年金のように定期的に一定の支払時期を定めて支払うやり方もあります。これが定期金賠償の問題です。
主に植物状態(遷延性意識障害)となった被害者における将来の介護費用が問題となります。
2 定期金賠償の問題が起こるのは,何故ですか。
①将来の予想できない問題に対応するためです。
(ア)仮に,植物状態となった場合には,健常者の平均余命まで生存することが可能であるかどうか不確かな面があるからです。
この点は,交渉や裁判の場面で生存している被害者に対して正面から議論することについては,はばかられ,なかなか抵抗のあるものです。
(イ)また,その点に関連して,将来の介護費用については,既に別の論点において述べましたように,判例は,相続を認めず,切断するとしています(最高裁第1小法廷平成11年12月20日判決 民集53・9・2038)。
すると,一時金として将来の介護費用を受領した場合において,被害者が平均余命まで生存するかどうかにより被害者側が必要以上な利得をしてしまうか,あるいは逆に損失を受けてしまうのではないかという考慮があります。
(ウ)さらには,介護費用の単価について,介護保険施行とともに,それに併せて上昇をしてかなりの高額となってきました。
②もう一つの側面は,被害者側,つまりは損害賠償請求権者からのものです。
(ア)一時金だと中間利息として年5%控除され手取額としては,いかにも少ないという気持ちが残ります。過失相殺があればなおのことです。
そこで,定期金払いにすれば,その中間利息控除が回避できるのです。
(イ)事件や被害を風化して欲しくないという,制裁的な気持ちからです。つまり,定期的に支払えば,その都度,加害者も思い出して反省の念を抱くだろうと言うことからです。
3 それでは将来の介護費用については定期金賠償を認めるべきでしょうか。
上の観点からすれば,将来の予想ができない問題があることから定期金賠償になじむと言えます。
他方,定期金賠償とするときに加害者と被害者とどちらにメリットがあるかの点では,将来の予想できない問題に対応できることは加害者側,つまり賠償側に多大なメリットがあると言えます。
仮に被害者が平均余命まで生存できないという心証を持っている場合には,加害者側から積極的に定期金賠償の申立がされることが多いと言えます。
4 被害者側の同意の必要性
上で述べたとおり,将来の介護費用を定期金とすることは,加害者側にメリットがあることから,被害者側,つまり損害賠償請求権者の請求が必要です。
従って,被害者側が請求をしないで一方的に認められることはありません。但し,この請求は明示ではなくとも,黙示であっても良い(つまりはっきりとした意思表示がなくても,そのつもりがあると思われればよいと言うことです。)とされています(東京地裁平成8年12月10日判決 判例時報1589号81頁)。
さらに,現行民事訴訟法第117条が「定期金による賠償を命じた判決」の文言を入れていることから被害者側に不利益がない場合には請求がなくても定期金賠償を命じることができるとする判決もあるので注意が必要です。
5 定期金賠償の問題点
その1(履行の保証)
将来の介護費用について定期金賠償となると,長丁場となりますので,支払う側にきちんと約束を守る,つまり履行の確保がなされいないといけません。
損害保険会社の統合が相次いで行われて,現在では,一段落した感があります。
しかし,長期的な経済予測については,誰も保証することはできず,これを払拭しなければ納得することはできません。
安全な履行確保のシステムが確立しない限りは手放しで承諾すべきではありません。
その2(公的給付との関係)
生活保護,介護保険などの公的給付を受けている場合には,一時金賠償であれば,一定の期間はこれらの公的給付を停止されます。
しかし,一時金がなくなれば再開されます。他方では,定期金賠償を受けるとなると,最後まで公的給付が停止されたままで結局は支給されないのではないか理論的には考えられます。そのようなアンバランスが場合によっては生じる恐れがあります。
6 結論
被害者側であるあなたが望めば,定期金賠償となる可能性は極めて高いと思います。
しかし,定期金賠償にも問題があることを理解して選択をしてください。