Q.重度の後遺障害のため介護が必要な被害者が死亡した場合に将来の介護費用は請求できますか。 (切断説と継続説)
結論から言えば,切断によって死亡後の介護費用は請求できません。
この点は,逸失利益について切断せずに認められることとは異なっています。
この途中死亡の場合に,後遺障害による逸失利益と同様に,将来の介護費用は被害者が死亡するまでのものに限定されるのか否かの問題です。
つまり死亡によって切断されるのか(これを切断説と呼びます。),それとも死亡後であっても,将来分ついても認められるのか(これを継続説と呼びます。)という議論がありました。
なぜ議論となったかというと,切断されてしまうと事件の解決が死亡前と死亡後では同じ介護を必要とする事案であっても損害賠償額が異なってくるからです。
理論的には,交通事故の損害は,事故発生の時点で後遺障害も含めて一定の内容として発生しているのであるから,その後の出来事が影響を与えるのかどうかと言うことが問題となりました。
損害が事故時点で発生しているのは当たり前ではないかと考えれば,先ほどの継続説が自然の結論となるのです。
逸失利益については,最高裁判決では継続説に立つことを明らかにしています。
しかし,将来の介護費用ということになると,介護を必要としている人が死亡しているのにかかわらず介護費用が発生するというのもおかしな気がします。
そういうバランスをとる意味で,理論的にも問題となったのです。
さて,冒頭で「議論がありました。」と過去形で述べました。
この問題は,既に,最高裁第一小法廷平成11年12月20日判決(介護費用判決と呼ばれています。交通事故の判例参照(クリック))等で切断説を採って,将来の介護費用は被害者の死亡によって終了することになって決着をみております。
この最高裁判決は,被害者が死亡すれば,その時点以降の介護は不要となるのであるから,もはや命じる理由はないことに加えて,その費用を加害者に負担させることは,被害者の遺族に根拠のない利得を与えて不公平になるということを述べています。
結論から言えば,被害者が後遺障害を負って,将来の介護費用を請求できる場合に,死亡した場合,その遺族は被害者が得られたであろう将来の介護費用を請求することはできないことになります。
この介護費用判決は,交通事故の発生時に損害も発生するという法律論はフィクションであるとして,不公平になるような場合にまでそのフィクションを貫くべきではないとして,介護費用については,継続説ではなく切断説をとったのです。
他方では,逸失利益については,貝採判決(リンク)では公平(注:判決文では「衡平」という文言を使用しています。)のために,事故時に損害は発生するというフィクションをあえてとりました。
この二つの判決の論理に整合性はあるのかという疑問があります。しかし,実質的な妥当性から,この判決の判例としての価値が失われることはないと思います。