Q.死亡慰謝料が増額されるのはどういう場合ですか。
裁判例を見る限り,いわゆる赤い本の基準に従った慰謝料額となることがほとんどです。
しかし,時として基準を超える死亡慰謝料が認められることがあります。
一般的には,以下の様な場合には増額事由とされています。
(1)加害者の過失が重大であったり事故態様が悪質な場合
例えば,飲酒運転,ひき逃げ,速度超過,信号無視,居眠り運転,無免許運転,わき見運転等
(2)加害者の事故後の態度が著しく不誠実な場合
証拠の隠滅は当然ですが,単に謝罪や見舞いをしなかった,あるいは責任を否定したとの一事を持って増額事由とすることは慎重にならざるを得ず,常識に反するような対応をしたなどの著しく不相当な場合に限られるとされています。
(「交通損害関係訴訟」青林書院 佐久間邦夫・八木一洋編著 p93より)
1 いわゆる赤い本での基準はどうなっていますか (クリックすると回答)
死亡慰謝料基準は,以下のとおりとされています。
[1]一家の支柱 2800万円
[2]母親,配偶者 2400万円
[3]その他 2000~2500万円
なお,[3]その他は,独身男女,幼児,高齢者が該当します。
しかし,これは一応の目安で具体的な事由で増減があり得るとされています。
[1]一家の支柱 [3]その他 では,上記の基準を超える裁判例が出ております。
2 [1]一家の支柱について基準を超える裁判例にはどのようなものがありますか。 (クリックすると回答)
なお,それぞれ年月日(平成),裁判所,金額(被害者年齢)です。
1から6は,いずれも,男性が被害者です。
1 15年3月27日 東京地裁 3600万円(62歳)
加害者が酩酊の上で高速道路を走行したという場合でした。
2 16年9月8日 名古屋地裁3200万円(24歳)
飲酒かつひき逃げという場合です。
3 18年8月21日 札幌地裁 3200万円(38歳)
明言をしていませんが,被害者が外資系会社員で高額所得者であることから,慰謝料で調整をしたものと考えられます。
4 16年10月28日東京地裁 3000万円(50歳)
一家の支柱に加えて全身不随で意識は清明という極めて悲惨な状態のまま,5年後に死亡した場合でした。
5 13年2月28日 神戸地裁 3100万円(57歳)
ひき逃げであり,その悪質性から認めました。
6 22年5月26日 大阪地裁 3500万円(32歳)
加害運転者が,恒常的に居眠り運転過重労働状態であり,その勤務する加害会社が居眠り運転の事実を隠そうとした悪質さが考慮されました。
7 17年7月12日 東京地裁 3020万円(49歳 女性兼業主婦)
娘が9歳の時に離婚し,以降娘が17歳になるまで扶養してきたことから認めました。
3 [3]その他について基準を超える裁判例にはどのようなものがありますか。 (クリックすると回答)
これは,独身男女,幼児,高齢者が該当します。
なお,それぞれ年月日(平成),裁判所,金額(被害者年齢)です。
①15年7月24日 東京地裁 3400万円(1歳)
加害者が酩酊の上で高速道路を走行した場合でした。
②17年6月23日 千葉地裁 3200万円(28歳)
飲酒かつひき逃げという場合です。
③17年6月27日 大阪地裁 3100万円(17歳)
被害者に過失がないこと,大学進学を控えていたこと,その上で遺族である両親が事故の真相解明に努力したものです。
④17年3月22日 青森地裁二戸支部 3100万円(7歳)
公刊されている範囲での資料が入手できないため詳細は不明です。
⑤12年3月31日 東京地裁 3000万円(事故時18歳・死亡時24歳)
事故により植物状態となった後に約5年後に死亡したものです。
⑥19年9月19日 東京地裁八王子支部 2800万円(8歳)
指定最高速度を大幅に超過して運転していたことが考慮されました。
⑦15年6月4日 名古屋地裁 2401万円(76歳)
被害者(男性)が,脳卒中で倒れた妻の介護・リハビリ・家事を手伝っていた事案です。
⑧18年3月10日 大阪地裁 2200万円(91歳)
過剰な輸血と輸液という医療過誤との競合を認めた場合です。