Q.むち打ち(頚椎捻挫)・腰椎捻挫で,主婦(家事従事者)の休業損害を請求できますか。
主婦は,家事従事者です。
家事従事者とは,家族のために主婦的な労務に従事する人を言います。
なお,性別は問いません。ですから主夫,つまり男性の家事従事者もありです。
また,家事従事者というのは,妻や夫に限りません。父親の介護をしている場合について認めた判決例もあります。
したがって休業損害を請求することができます。しかし,金額を巡って問題があります。
1 損害保険会社(共済)が交渉で一般的に示す金額は (クリックすると回答)
交渉におけるいわゆる保険実務として示される主婦休損は,1日あたり5700円×実際に通院ないし入院をした日数です。
これは,
自賠責保険が5700円を超えることが明らかなことが証明できない場合には原則として5700円とするという1日あたりの基準額に従ったものです。
しかも,他に家事をする人がいないことの自己申告書を要求されることがあります。
主婦ですから,当然ながら,証明はできないことから,この1日あたり5700円というのが,家事従事者である専業主婦の休業損害として結びついて主婦休損=1日あたり5700円という図式ができあがっているのです。
なお,実際に通院ないし入院をした日数とするのは,それ以外の日については,家事は可能であろうと言うことからだと考えられます。
結論としては,賃金センサスの女子平均賃金×仕事ができなかった期間となります。
現在の訴訟において,専業の家事従事者(これは女性に限らず男性の場合も)についての休業損害は
,賃金センサスの女子平均賃金で額を算定することに定着しています。
後遺障害等の逸失利益に関しても基礎収入に関して同じ問題が生じます。
その点も同様に賃金センサスの女子平均賃金で額を算定することに定着しています。
3 賃金センサスの(女子)平均賃金とは (クリックすると回答)
平均賃金といっても,大まかに言えば次のものがあります。
①女子労働者の全体の平均値(産業・企業規模・学歴・全年齢を通した全体)
②被害者の年齢に対応する年齢別の労働者平均値
③学歴などでさらに細かくされた分類での平均値
東京地方裁判所交通部を初めとした裁判所の考え方は,むち打ち(頚椎捻挫)や腰椎捻挫については②年齢別によっていると考えられます。
訴訟においては,有職主婦つまり兼業主婦の場合,現実収入が平均賃金を上回れば,現実収入を基礎として,逆に現実収入が平均賃金を下回れば平均賃金による扱いが通例です。
なお,パート等での副収入がある場合に,平均賃金にその分を加算して基礎収入として請求できるかどうかですが,この点は,最高裁判決(昭和62年1月19日)では否定されており,裁判実務でも加算しないことで定着しつつあります。
5 主婦休損における休業期間は,どのくらいですか (クリックすると回答)
さすがに,後日,高い後遺障害等級が出るような場合においては,症状固定日までの休業期間を認めています。
むち打ち等捻挫系に関して多く見られることですが
,休業期間について実態の把握が困難であることもあり,どこまでの期間が認められるのか,争いとなることが見られます。
しかし,むち打ち等捻挫系に関しては,最近2013年(平成25年)以降の傾向としては,休業期間を2ヶ月超えることは交渉のみならず,訴訟においても難しくなっていると言えます。
場合によると,安静期の1ヶ月程度まで,と言うことも珍しくありません。