Q.脊柱管狭窄による素因減額をされないのは,どのような場合ですか。
脊柱管狭窄は,交通事故に遭った場合には,頚髄損傷を含めた脊髄損傷となるリスクがあります。
そして,後遺障害に認定されるとも,賠償額を減額する素因減額をされる可能性があります。
そこで,裁判所は,どのような場合であれば素因減額をしないかをご紹介します。
1 脊柱管狭窄について素因減額を否定している裁判例はどのような場合ですか。(クリックすると回答)
(1)事故前に被害者が脊柱管狭窄だったかの立証がされない場合
(2)脊柱管狭窄があったとしても,それとは無関係に発症したと考えられるほどの外力が事故により加わった場合
(3)脊柱管狭窄があったとしても,通常程度(年齢相応)の変性の場合であると考えます。
なお,具体的にはそれを複合させて判断していると考えられます。
2 具体的には,どのような場合ですか。(クリックすると回答)
①は,「脊柱管狭窄症の症状を有していたことを認めるに足りる証拠はない。」という立証上の判断に加えて,「自体相当激しい衝撃」があった場合です。
(1)(2)両方に該当します。
②は,「本件事故による外力の大きさにかんがみると,仮に原告の骨性脊柱管の直径が平均人と同程度のものであった」脊柱管狭窄が発症には寄与していなかったとされたものです。
(2)(3)両方に該当します。
③は,「通常の加齢による骨の変性・個体差の範囲を超えるものであることを認めるに足りる証拠はないし,それがどの程度頸髄損傷の発症及び損害の拡大に寄与したかは不明というほかない。」は,脊柱管狭窄と言えるかの立証上の判断です。
(1)に該当します。
④は,「原告の上記骨変性が加齢性変化についての個人差の幅を超えて通常生じ得ないほどのものであるということはできない。」は,脊柱管狭窄とは言えないと判断したものです。
(3)に該当します。
①否定
大阪地裁 平成13年6月28日判決
原告が本件事故前から脊柱管狭窄症の症状を有していたことを認めるに足りる証拠はない。
本件事故は,それ自体相当激しい衝撃を人体に及ぼすことが予想されるものであった。
②否定
京都地裁 平成14年11月7日判決
本件事故による外力の大きさにかんがみると,仮に原告の骨性脊柱管の直径が平均人と同程度のものであったとしても,原告に頸髄不全麻痺の後遺障害が残存した可能性は大きかったものとみるのが相当であり,本件事故による原告の受傷について上記の特段の事情があるともにわかに認め難いから,原告が本件事故により被った損害を定めるに当たっては,原告の骨性脊柱管狭窄を斟酌することはできない。
③否定
東京地裁 平成17年1月17日判決
いわゆる成長性脊柱管狭窄(無症状)の度合いが,通常の加齢による骨の変性・個体差の範囲を超えるものであることを認めるに足りる証拠はないし,それがどの程度頸髄損傷の発症及び損害の拡大に寄与したかは不明というほかない。
④否定
名古屋地裁 平成18年12月15日判決
上記のような骨変成は,加齢性変化による体質的素因であって,病的素因というべきものではなく,しかも,原告の上記骨変性が加齢性変化についての個人差の幅を超えて通常生じ得ないほどのものであるということはできない。そうすると,原告について,上記のような骨変成を理由に素因減額を行うことは相当でないというべきである。
脊柱管狭窄による素因減額一般の問題はこちらを参照して下さい。
☆脊柱管狭窄により素因減額がされるのは,どのような場合ですか。また,どれだけ減額されますか。---後遺障害賠償は,むさしの森法律事務所(リンク)