Q.上腕骨骨頭骨折(上腕骨近位端骨折)とは何ですか。後遺障害(後遺症)は何級になりますか。

[人工骨頭置換術,可動域制限,関節拘縮]

A.

腕の付け根の肩の近く周辺の骨折を言います。
肩関節の機能障害となり10級10号あるいは12級6号となる可能性があります。
あるいは,人工骨頭置換術後は可動域が健側の2分の1以下となれば8級6号,それを超えていれば10級10号となります。

1 上腕骨上端部(骨頭・骨頭下)骨折(クリックすると回答)

上腕骨近位端骨折とも言いますが,いわゆる二の腕の付け根の肩の近く周辺の骨折を言います。
上腕の骨は,上腕骨と尺骨・橈骨で構成されています。 四肢において近位とは体に近いという意味です。 ※1尺骨とは,腕を構成する二つの長管骨の内で小指側にあるものです。 ※2橈骨とは,腕を構成する二つの長管骨の内で親指側にあるものです。

上腕骨骨格図 上腕骨骨折.jpg

2 発生機序・治療(クリックすると回答)


転倒して手を伸ばしてついた場合,あるいは直接肩外側を打った場合に起こります。
高齢者,特に女性で骨粗鬆症のある方には頻発すると言われています。
若い人の場合には,局所に強いてこの力が働いてしまうと脱臼骨折の形をとることがあるとされています。

転位の小さなものは保存的治療の対象とされています。
骨癒合は良好な部位です。

転位が大きければ整復を必要としますが,徒手整復が難しければ牽引療法がなされます。それ以外にも懸垂ギプス包帯の方法もあります。

骨片が存在したり,骨折端間に軟部組織が入り込んだりしている場合には観血的整復方法がとられます。
骨癒合は良好な部位ですが,時に関節拘縮 が生じて可動域制限が残る場合があります。
また,この部位は肩のすぐ下ということもあり,大腿骨と並び人工骨頭置換術の対象となります。
高齢者の粉砕骨折では人工骨頭置換術が行われます。

3 後遺障害(後遺症)(クリックすると回答)


(1)肩関節の可動域制限(機能障害)
これは関節拘縮による機能障害と骨折部の変形治癒による機能障害が原因となると考えられます。
その可動域により著しい機能障害として10級10号,機能障害として12級6号となる可能性があります。

(2)肩関節の用廃
大腿骨についての人工骨頭置換術あるいは人工関節術と同じく可動域が健側の2分の1以下であるかどうかで8級6号か,10級10号かに分かれます。


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肩関節の可動域制限(リンク)

上腕骨遠位端骨折(リンク)

上腕骨幹部骨折(リンク)

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4 上腕骨骨折の分類
上腕骨とは,その部分にある,1本の太く長い骨(長管骨)です。
上腕骨は,上端部(骨頭・骨頭下),骨幹部,遠位端に分けることができます。

後遺障害としては,
上端部(骨頭・骨頭下)骨折が肩関節
遠位端骨折が肘関節あるいは手関節
骨幹部あるいは遠位端は,手関節
に関係します。


5 上腕骨に関係する骨・筋肉・神経
上腕骨を動かすのは,肩関節の運動です。
主な筋肉として肩甲下筋,大胸筋,三角筋,棘上筋,大円筋,小円筋があります。
そして,骨で言えば肩甲骨を起始として上腕骨を停止とする筋肉です。
ただし,大胸筋と三角筋は肩甲骨のみならず鎖骨も起始としている部分もあります。

上腕の筋には屈曲筋として上腕筋と上腕二頭筋等があり,上腕筋は上腕骨から尺骨まで伸びおり,伸展筋として上腕三頭筋等があり,これも上腕骨を起始として尺骨を停止としています。
上腕三頭筋の支配神経は橈骨神経です。

肘関節を動かすものにも関係します。
上腕骨の遠位2/3を起始として尺骨を停止とするのが上腕筋で上腕二頭筋と共に肘関節の屈曲の重要な働きをしています。
さらに,上腕骨を起始として橈骨を停止する円回内筋と回外筋は,前腕運動の回内と回外に関係します。

手関節についても上腕骨を起始とする筋群があります。橈側手根屈筋,尺側手根伸筋等です。
さらに尺骨神経,橈骨神経を支配神経とするものがあります。

これらの筋と神経分布により,上腕骨骨折が肩関節のみならず肘関節さらには手関節にも影響することが理解さらます。


6 上腕骨上端部骨折の分類 
上腕骨上端部は,大きく上腕骨頭部・大結節・小結節の3つで構成されています。
上腕骨上端部骨折は,この大小結節を境として

(1)結節上骨折と(2)結節下骨折に分類されます。

(1)結節上骨折は,(1)-1 骨頭骨折と(1)-2 解剖頚骨折に分類され,

(2) 結節下骨折は,
(2)-1 結節貫通骨折,
(2)-2 外科頚骨折,
(2)-3 骨端線離開(小児のみ)
に分類されています。

さらに,転位の有無あるいは骨折・脱臼という要素を入れてNeerの7分類が著名とされています。
これは,上腕近位の骨構造を上腕骨骨頭・大結節・小結節・上腕骨幹部の4部に分け,その骨折による分離の度合いで分類するものです。

骨片の転位(ズレ)が1㎝以上あるいは45°以上あれば転位あり,それ以下を転位なしとして,骨折後の砕け方で骨片のパーツ2~4骨片に分けて,さらに関節面の圧潰型骨片を加えるものです。
つまり
(1)転位なし
(2)解剖頚(骨折) 2パーツ(骨片)
(3)※3外科頚(骨折)2パーツ(骨片)
(4)大結節(骨折) 2パーツ(骨片)から4パーツ(骨片)
(5)小結節(骨折) 2パーツ(骨片)から4パーツ(骨片)
(6)前方脱臼骨折 2パーツ(骨片)から4パーツ(骨片)
(7)後方脱臼骨折 2パーツ(骨片)から4パーツ(骨片)

なお,上腕骨上端部骨折の大部分が(3)※3外科頚骨折です。
※3外科頚=上腕骨の大・小結節を結んだ線に接した直下(遠位部)に対する名称です。
これに対して,解剖頚(解剖学的頚部)は上腕骨骨頭と大・小結節を結ぶ線との間の部分ですが,外傷による骨折は,外科頚の部分に好発するので,外科の対象となりやすいので,「外科頚」の名称がついたものです。

 

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